大切な、稚尋の初恋。
ある日の深夜、いつものように稚尋と弥生、雛子が川の字になって眠っていた時だった。
母親の、突然の金切り声に稚尋の目が覚めた。
『あたしは嫌よ!?稚尋を引き取るなんて!!あたしにも、大切な彼との生活があるのよ!!引き取るのは、弥生だけよ』
母親の冷たい言葉に、稚尋は久しぶりに心の傷を負った。
耳を、疑った。
『俺だって!!稚尋はごめんだ!!』
父親の声も聞こえた。
ふと気がつくと、涙が稚尋の頬を伝っていて、誰かがその涙を拭ってくれた。
『ひ、な?』
雛子だった。
『大丈夫だよ。雛は、ちーが大好きだから』
雛子はそう言って、ニコッと稚尋に向かい、笑顔を見せた。
その夜は、久しぶりに泣いたのを覚えている。
初めて稚尋を泣かせてくれたのは、雛子だった。
結局、稚尋は父親に引き取られる事になった。