恐る恐る稚尋の手を取った冬歌。
『よ、よろしく……』
造られた笑顔に、こちらの笑顔まで、歪んだ。
その後、冬歌は実の母親から稚尋の生い立ちを聞いた。
稚尋の母親と稚尋の父親の間には、もう一人の子供がいたという。
しかし、愛情を与えられたのは……もう一人の子供だけ。
稚尋は全く関心を持たれなかった。
甘えても、ねだっても、稚尋の両親は彼を突き放した。
突き放したどころか、稚尋の育児を放棄した。
だから、稚尋はあんなにも大人びていたのだろう。
両親の前で子供になることを許されず、いい子でいることでやっと生きながらえてきた。
愛情をそれなりに受けていた冬歌とは、大違いだ。
きっと稚尋は、本当の家族を知らない。
『お母さん。あたしが、稚尋を笑顔にしてあげる』
そのためには、稚尋の味方になってあげなくちゃ。
うちの場合、お父さんが浮気して、お母さんがあたしを引き取ってくれた。
稚尋は……母親がもう一人を引き取り、父親は渋々稚尋を引き取った。
その家にいるのは、どれほどの苦痛だっただろう。
たった五歳の男の子は、本来の家族の形を知らなかった。