己の過酷な運命を引き受けて、今も勇敢に戦う真の戦士ボブ・ワナメイカー。鋼の精神力でリハビリをやり抜き、今は、自宅にいるのを風のうわさに聞いていた。
逃げるように沖縄に向かおうとしている自分が恥ずかしくて、ボブに会う気にはなれなかった。何も告げずに行くつもりだった。だが、やはり会っておこう。叱られるかもしれない。あるいは背中を押してくれるかもしれない。いずれにせよボブなら、今の俺が必要としている言葉をかけてくれるに違いない。

ボブの住まいは、ロサンゼルスの中心街からはハイウェイを車で三十分ほど行った郊外にある一軒家だった。このケイトとの愛の巣には、彼らがまだ新婚だった当時招待されたことがある。あの時は、リックや他の仲間たちと一緒に徹夜でパーティを楽しんだ。
だが、数年ぶりに訪ねたボブの家は、当時の面影をほとんど残していなかった。かつてきれいに手入れの行き届いた芝生が自慢だった庭は、雑草が茂って荒れ果てている。玄関のポーチに並ぶ鉢植えも、花は大昔に枯れ果て、腐りかけた土だけとなって転がっている。
予想外の状況にケンは急に不安になってきた。ボブに何かあったのだろうか?
だがせっかくここまで来て、何も言わずに帰るわけにもいかない。ケンは勇気を出してインタホンを押した。
家の中から犬が吠えるのが聞こえてきた。しばらくの間を置いて応答があった。
「誰だ?押し売りならお断りだぜ。撃たれる前に消え失せな」
それは、不機嫌そうではあるが紛れもないボブの声だった。少しホッとしてケンは言った。
「ボブ、俺だ。ケン・オルブライト。あんたと話がしたくてちょっと寄ってみたんだ。都合が悪いなら日を改めるけど」
「ケン・オルブライト?・・・おお、ケンか。小僧め、どうしたよ?まぁいい、開いてるから入ってこいよ」
いつものボブが戻ってきたみたいだ。安心してドアを開け、家の中に足を踏み入れたケンを再び不安が襲った。家は外だけでなく、中もかなり荒れており、最後に掃除をしたのは一体いつなのかといったあり様だった。
入り口に立ち尽くすケン目がけて、まだ小さなラブラドール・レトリバーが飛びついてきた。足元でじゃれついてくる小犬を抱き上げてやると、興奮してケンの顔をこれでもかと舐めてくる。
「ヴィク、やつの顔はそんなに美味いのか?」
そう言いながら、車椅子に乗ったボブが億劫そうに奥から出てきた。
一目で酔っぱらっているのが分かった。その姿に、かつてフォース・リーコンの一等軍曹だった頃の面影はほとんどなかった。それどころか、病院でリハビリに打ち込んでいた頃とも別人のようである。
髪はぼざぼざで伸び放題。手入れを怠ることのなかった自慢のひげも放置。目は何日間も徹夜したかのように充血。着ているタンクトップは、胸のあたりがケチャップか何かの染みですっかり汚れている。
変わり果てたボブの姿に、ショックを受けていることを悟られまいとして、ケンは努めて平静を装った。
「やぁ、ボブ。変わりはないかい?」
我ながら何と間抜け質問なのかと絶望的な気分になった。変わりないわけがないのは、この家とボブ自身を見れば一目瞭然ではないか。
ボブは、自虐的な笑みを浮かべると、ケンを家に招き入れた。
「見ての通りだよ・・・何一つ変わっちゃいない。絶好調だぜ。まぁとりあえず突っ立ってないで入れよ」
小犬に引っ掻かれてボロボロになったソファに腰を下ろしながら、ケンはリビングを見渡した。あの夜パーティを楽しんだのと同じ部屋とは到底思えない惨状だった。