岡野はかなり自信がありそうに見えた。実際、優男風の見た目から想像するのは難しいが、岡野が非常に優秀な私立探偵であることは、これまでの実績からも十分に承知している。実力がものをいうフリーランスで、裏街道の危険な仕事を専門に引き受けてこられたのも、その能力の高さゆえである。
「んじゃ、それ以上かかったら一日ごとに報酬減らすよ」
冗談ともつかない口調で告げると、妹尾は岡野を急き立てるように言った。
「そうと決まったら、さぁ急げや急げ」
「はいはい、言われなくとも。んじゃ毎日二回は連絡入れますんで」
岡野は敬礼のポーズをとると、軽い足取りで部屋を後にした。

五日間か。妹尾は考えた。
ケン・オルブライトの居所をつかみ、現地に向かう前に会っておきたい人物がいる。自衛隊時代に世話になった栗岩だ。自衛隊を除隊する時にあいさつしたのを最後に栗岩とは十年以上会っていない。外人部隊除隊後、日本に帰国してからは、その気になれば会うこともできただろう。だが会ってはならない気がした。
妹尾の能力を誰よりも信じ、自衛隊に留まるよう説得しながらも、妹尾が強固な意志を曲げることは決してないことも理解していた栗岩は「君なら絶対に大丈夫だ。必ず生きて帰ってこい」と言って、妹尾を気持ちよく送り出してくれた。
そんな栗岩に、ヤクザに雇われて汚れ仕事を行う掃除屋に成り果てた自分が会う資格はない。人を殺すことを生業とする今の自分は、もうあの頃の、常に高みを目指して挑戦を続けた自分ではないのだ。そんな思いが妹尾に、栗岩との再会を思い留まらせたまま今に至っている。
だが、今回の仕事は特別な気がする。これを最後に、できれば足を洗いたいと願う自分に嫌でも気づかされる。その事実が、妹尾の頑なな気持ちを氷解させ、栗岩との再会へと自分を導いている気がするのだった。