無言でいるケンを見て、ロバートは続けた。
「俺がお前の兄貴なら、よくやった!それでこそわが弟だって褒めてやったね。リックはちょっと真面目過ぎるな。海兵ってのはなぁ、やんちゃ坊主で丁度いい位なんだぜ」
ケンは、ロバートが兄を批判している訳ではないことを充分承知していた。ロバートは、リックがいかに優れた兵士であり、類まれなリーダーの素質を持っているかを誰よりも理解している。だからこそリックの女房役を引き受け、戦場では常に副官として彼をサポートし続けているのだ。
今は、落ち込んでいるケンを励ましたい一心で、こんなことを言っているのである。
「どうだい、坊や。この後ちょっと付き合えよ」
「えぇ?ケイトの自慢話はもうたっぷり聞いたよ」
「馬鹿野郎、今日はそんなんじゃねぇよ」
そう言いながらケンの右肩に軽くパンチを打ち込むと、ロバートは強引に肩を組んで渋るケンを引きずって行った。
下士官クラブが経営するバー「センチネル」は、閉店時間まで後一時間程とあって、客の姿はまばらだった。
隅のテーブルに陣取ったケンとロバートは、ビールを注文した。
「今日は俺がおごるからガンガン飲めや」
「悪いね。遠慮なく頂くとするよ」
「よし、未来の偉大なる戦士に!」
「俺のこと?」
「お前の他に誰がいるよ?」
「乾杯!」
二人は喉を鳴らしながら一気に飲み干すと、すかさず二杯目をオーダーした。
「で、今日は何だって俺を誘ってくれたんだい?」
「兄貴に叱られて、湿気たツラしてやがったからな」
「いやぁ、チャンピオンのパンチはマジで効いたよ。明日の訓練に響きそうだ」
「まあな。実は俺も昔はちょっとボクシングかじっててさ。リックとスパーリングやったこともあるんだ」
「へぇ、初耳」
「ああ。あん時ぁ、リックもボクシングを始めてまだ三ヵ月って言ってたから、軽く揉んでやるつもりで付き合ったんだがな。三分後にリングの上で伸びてたのは俺の方」
ロバートは大声で笑ってから、話を続けた。
「でもよぉ、ボクシングなんて腕だけで闘う競技だろ。所詮はスポーツさ。パンチがどんなに上手くなったって、何でもありの実戦じゃ使えないぜ」
「まぁね。だから俺たち海兵隊も近接戦闘術の訓練してるんだろ?」
「あれも、まぁ護身術って言うか制圧術みたいなもんだよな。向かってきた敵を取り押さえるみたいな・・・でな、ケン。最近俺はすげぇ格闘術に出会ったんだ。ナイフ格闘術」
「ナイフ?特殊部隊の連中がやってるあれか?」
「ああ、だが俺の師匠はもっと凄いぜ。ありゃ神業だね。目にもとまらぬスピードでな、こう」
そう言いながらロバートが腕を振り回したので、危うくビールのジョッキを倒すところだった。
「どうだい、坊や。今度の休みに道場に連れてってやるからよぉ、お前も一緒にやろうぜ」
「う~ん、ナイフ術ねぇ」
煮え切らないケンに、ロバートは発破をかけた。
「四の五の言ってないでやれよ!きっと役に立つぜ。但しリックには内緒な」
「なんで」
「馬鹿野郎。奴さんがナイフ始めた日には、俺なんかあっという間に追い抜かれちまうよ」
「ボクシングの時みたいに?」
顔を見合わせて二人は笑った。
ようやく気分が晴れたことにケンは気付いた。仲間というのは何てありがたい存在なのだろう。俺も、彼らからそんな風に思って貰えるような男になろう。そうケンは誓った。
「俺がお前の兄貴なら、よくやった!それでこそわが弟だって褒めてやったね。リックはちょっと真面目過ぎるな。海兵ってのはなぁ、やんちゃ坊主で丁度いい位なんだぜ」
ケンは、ロバートが兄を批判している訳ではないことを充分承知していた。ロバートは、リックがいかに優れた兵士であり、類まれなリーダーの素質を持っているかを誰よりも理解している。だからこそリックの女房役を引き受け、戦場では常に副官として彼をサポートし続けているのだ。
今は、落ち込んでいるケンを励ましたい一心で、こんなことを言っているのである。
「どうだい、坊や。この後ちょっと付き合えよ」
「えぇ?ケイトの自慢話はもうたっぷり聞いたよ」
「馬鹿野郎、今日はそんなんじゃねぇよ」
そう言いながらケンの右肩に軽くパンチを打ち込むと、ロバートは強引に肩を組んで渋るケンを引きずって行った。
下士官クラブが経営するバー「センチネル」は、閉店時間まで後一時間程とあって、客の姿はまばらだった。
隅のテーブルに陣取ったケンとロバートは、ビールを注文した。
「今日は俺がおごるからガンガン飲めや」
「悪いね。遠慮なく頂くとするよ」
「よし、未来の偉大なる戦士に!」
「俺のこと?」
「お前の他に誰がいるよ?」
「乾杯!」
二人は喉を鳴らしながら一気に飲み干すと、すかさず二杯目をオーダーした。
「で、今日は何だって俺を誘ってくれたんだい?」
「兄貴に叱られて、湿気たツラしてやがったからな」
「いやぁ、チャンピオンのパンチはマジで効いたよ。明日の訓練に響きそうだ」
「まあな。実は俺も昔はちょっとボクシングかじっててさ。リックとスパーリングやったこともあるんだ」
「へぇ、初耳」
「ああ。あん時ぁ、リックもボクシングを始めてまだ三ヵ月って言ってたから、軽く揉んでやるつもりで付き合ったんだがな。三分後にリングの上で伸びてたのは俺の方」
ロバートは大声で笑ってから、話を続けた。
「でもよぉ、ボクシングなんて腕だけで闘う競技だろ。所詮はスポーツさ。パンチがどんなに上手くなったって、何でもありの実戦じゃ使えないぜ」
「まぁね。だから俺たち海兵隊も近接戦闘術の訓練してるんだろ?」
「あれも、まぁ護身術って言うか制圧術みたいなもんだよな。向かってきた敵を取り押さえるみたいな・・・でな、ケン。最近俺はすげぇ格闘術に出会ったんだ。ナイフ格闘術」
「ナイフ?特殊部隊の連中がやってるあれか?」
「ああ、だが俺の師匠はもっと凄いぜ。ありゃ神業だね。目にもとまらぬスピードでな、こう」
そう言いながらロバートが腕を振り回したので、危うくビールのジョッキを倒すところだった。
「どうだい、坊や。今度の休みに道場に連れてってやるからよぉ、お前も一緒にやろうぜ」
「う~ん、ナイフ術ねぇ」
煮え切らないケンに、ロバートは発破をかけた。
「四の五の言ってないでやれよ!きっと役に立つぜ。但しリックには内緒な」
「なんで」
「馬鹿野郎。奴さんがナイフ始めた日には、俺なんかあっという間に追い抜かれちまうよ」
「ボクシングの時みたいに?」
顔を見合わせて二人は笑った。
ようやく気分が晴れたことにケンは気付いた。仲間というのは何てありがたい存在なのだろう。俺も、彼らからそんな風に思って貰えるような男になろう。そうケンは誓った。