妹尾は口数の多い人間ではないらしく、やがて会話は途切れ車内に沈黙が立ち込めた。
ジロジロと見るわけにもいかないが、好奇心には勝てない。金本はバックミラー越しに、外の景色を眺めている妹尾を観察した。
強面の男を想像し、胃の痛む思いまでしていたが、実際の妹尾はどこにでもいそうな普通の男じゃないか。四十歳近いというのが本当なら、確かに体つきは若い。ラフなシャツの下に隠れた体は引き締まっている印象だ。
一方で顔はどうだろうか。
髪は無造作に刈りっぱなしでやや短め。顎にかけてやや四角張った輪郭とそれに続く太い首は力強さを感じさせるが、顔の表面には細かい皺が刻まれていて歳相応といったところだ。唯一、印象的なのはギョウザのように変形した耳くらいか。
自分より一回りほど年上のはずだが、偉ぶった風でもないし、物腰は静かで威圧感もない。本当にこの男が殺し屋なのだろうか。それも一流の・・・。
金本には、自分の周りで見慣れたゴロツキ連中の方がよほど危険に思えた。あいつらはどこにいたってそれと分かる。町を歩いていれば、すれ違う人間は目を逸らしながら自然と道を開けるものだ。
一方で、バックミラーに映るこの男は、違和感なく通行人の中に溶け込むだろう。殺し屋だなどとは誰も思わないはずだ。
妹尾に抱いていた緊張感から解放された金本は、勝手に一人でビビっていた自分に苦笑した。だが、しばらくすると別の思いを抱き始めた。
こんな、どこにでもいそうな普通の男が人間を殺しているのか。しかも、それを生業としているのか。
珍しく謙虚な気持ちになっている金本は、自戒を込めつつ思った。
人間、見かけで判断していると、時にとんでもない目に遭うことがありそうだ。