新井は、堀田にカプセルホテルを見張らせて一度組に戻ると、鳴海の指示を仰いだ。
なるべく早く始末したいが、うちのシマでは拉致も殺しも絶対にやるな。ホテルから出たらとりあえず尾行し続けろ。絶対に見失うな。人目につかず、なお且つシマから遠く離れたところで、騒ぎにならないよう実行しろ。できれば拉致して連れ戻すのがベストだが、大人しく言うことを聞かないようだったら殺ってよし。
指示を受けるや、新井は中国製の拳銃を持って再び堀田の見張る現場に戻った。
一つしかないカプセルホテルの出入り口が見える場所に座って待つこと五時間。辺りが薄っすらと明るくなり始め、二人ともいい加減うんざりしてきたその時、ホテルの入り口から小さいバッグを抱え、ベースボールキャップを目深に被った男がそそくさと出てきた。変装のつもりかも知れないが見間違えるはずもない、あの外国人だ。
二人はすかさず後を付けた。こちらの存在に気付かれて警戒されることよりも見失ってしまうのを恐れた新井と堀田は、外国人との距離を詰めてぴったりと後について回った。
外国人は始発の電車に乗りこんだ。どこまで行くつもりかは分からないが、ついて行くしかあるまい。花山一家の縄張りを出て、さらに人目につかない場所まで追跡し続けるより他に選択肢はなかった。

「結局、どこまで行ったって?」
「それがさ、はるばる電車で半日以上。日本海側の何とかいう駅まで行ったんだよ」
「日本海?」
「ああ、町の名前は・・・天ヶ浜だったな」
「天ヶ浜・・・聞かんね。外人がまた何でそんな所に?」
「知るかよ。それでさ、あいつらから連絡がないからイライラして待ってたんだよ、俺も。でさ、ようやくその日の夜遅くに電話があってさ」
なかば呆れたような表情で、鳴海は続けた。
「何とまぁ、見失ったって言うんだよ。それ聞いて俺もキレてさ。見つけるまで帰ってくるなって怒鳴ったんだけど、大ケガ負ってるから無理だって泣き事言いやがんの」
「その外人に?」
「そ。俺も『MIYABI 雅』での騒ぎを直接見てればもう少し考えたんだけどさ。その時はあの二人で充分だと思ったんだよ・・・甘かったね」
「で、自分に話がきた・・・と」
「うん。ここは掃除の達人、妹尾先生の出番だと思ってね。沖縄の・・・唐島だっけ?あっちにちょいと因縁つけながらお前さんのこと、推薦したんだ。斡旋料くれよな」
にやりとしながら鳴海は言った。
「よく言うよ。唐島のヘロイン盗っといて、その上、後始末まであっちにやらせるんだから。欲張るのも程々にしないと罰あたるぞ」
「お前ねぇ、それ、俺がオヤジに言えると思う?」
「言えない」
顔を見合わせた二人は思わず笑った。その様子は、傍から見れば友人同士が仲良く会話に花を咲かせている風に見えただろう。