・・・警本部の発表によりますと、妹尾容疑者は、今月十五日、埼玉県朝霞市の浅堀川沿で三人の遺体が発見された事件・・・

舞子の鼓動は急激に高まり、辺りの音が聞えなくなった。

・・・疑者として全国に指名手配されました。目撃者の証言によりますと・・・

背後に人の気配を感じた舞子は、飛び上がるようにビックリして振り返った。
悦子が、焼き立てのトーストを乗せた皿を持ったまま立っていた。
いつからそこにいたのだろう。テレビを茫然と見つめているところを見ると、今のニュースを見ていたのは先ず間違いなさそうだ。
舞子は、なんと言い出すべきか分からずに黙り込んだ。
悦子も、何も言わずにトーストの皿をテーブルにそっと置いた。
舞子も悦子も、今のは無かったことにしたかった。だが、そうもいかない。たった今、二人が同時に見聞きしてしまったニュースに何も触れないのはむしろ不自然だ。
「今のニュース・・・」「あのカメラマン・・」
気まずい沈黙を破ろうとして舞子と悦子が、ほとんど同時に口を開いたため、言葉が被った。

同時刻―沖縄県名護市
唐島興行が事務所を構える商店街。そこにある馴染みのラーメン屋で、金本は昼飯を食べていた。メニューは大体いつも同じでチャーハンと餃子のセット。ラーメンを食べることはほとんどない。餃子は可も不可もなくだが、刻んだナルトがたくさん入ったチャーハンは、金本のお気に入りメニューだった。
カウンター席の奥、高い位置に備え付けられた年代物の小さなテレビは、画面が油汚れで黒ずんでいたが、それでもそこに映し出された顔を見た時、金本はそれが誰だかすぐに分かった。かれこれ半月以上前になるか、米軍基地近くの公園に迎えに行った殺し屋の男だ。名前は確か妹尾・・・
「おっちゃん、ちょっとテレビの音、上げてくれる?」
・・・達郎っていうのか。それにしても、殺人事件の容疑者だって?ということは、さては依頼に失敗しやがったな。
しかし三人の遺体ってのはどうなってんだ。うちが依頼したのは俺の知る限り、一時用心棒やってたあのアメ公だけのはずだが。
ともかく呑気に飯なんか喰ってる場合じゃない。急いで社長に知らせなくちゃな。ただでさえ、ユミちゃんが社長室の花瓶をうっかり割って以来機嫌が悪いんだ。おまけにここ数日は、妹尾から進捗具合の報告がないとかってピリピリしてるんだから。
金本は、チャーハンの残りを大急ぎで口に掻っ込むと、表に飛び出した。
が、代金を払ってないことを思い出して戻ってくると、店のおやじに千円札を放ってよこした。
「釣りはいらんよ~」

同時刻―埼玉県某所
花山一家の事務所は、ほとんどの者が出払っていて妙に静かだった。鳴海は一人でテレビを見ていた。
昼のニュース番組を見ながら、見てはならないものを見てしまった気分に襲われた。ここ数日、胸の内でもやもやしていた考え。そんなはずはないと自分に言い聞かせながらも、払拭できなかったその考えの裏が取れてしまったのだ。
桜田組との取引があったあの夜、うちの新井と堀田の二人が殺された。その現場から立ち去る影に、なんとなく見覚えがあった。妹尾だ。
だが、妹尾があの場にいるはずもなく、ましてうちの舎弟を殺す理由もない。だから見間違えだ、考え過ぎだと言い聞かせてきたわけだが、そこにこの知らせである。