舞子は自室のベッドで目を覚ました。一瞬、自分がどこにいるのか、今がいつなのかも分からなかった。ぼんやりと目覚まし時計に目をやると、もう十二時近かった。
「あちゃ~」
頭がはっきりしてきた。昨夜、祭りから帰って店でケンとお酒を飲んだのだった。
思い出した途端、こめかみが疼いた。二日酔いだ。
普段はお酒なんかほとんど飲まないのに、昨夜はついつい飲み過ぎてしまった。
ケンのために買ってきたCDを聴いたところまでは憶えているけれど、いつの間に寝てしまったのだろう。
自分の部屋まで上がってきた記憶がない。
なんとなく誰かに抱っこされて階段を上った気もするが、夢かも知れない。
メイクも落とさずに眠ってしまったようだ。
そんなことをあれこれ考えながら、掛け布団を持ち上げて自分の格好をみると、ちゃんとパジャマに着替えていてびっくりした。
ベッドの傍らの椅子の背もたれに、脱いだ浴衣や襦袢が乱暴にかかっている。
夢遊病のように無意識のうちに着替えて寝たのだとしたら、そんな自分はちょっと恐い。
そうではなくて誰かに着替えさせられ、ベッドに寝かしつけられたのだとしたら・・・母さんか、まさかとは思うがケンさんが?
そんなことはあり得ないと思いつつ、万一そうだとしたらもっと恐い。
舞子は急にドギマギして布団を頭からかぶると、一人で悶絶した。
だが、少し冷静になって今の状況を考えた時、そんなことなど気にならない程、舞子の気分は沈みこんだ。ケンにステンドグラスの狼を見せ損ねてしまったのだ。
奉納祭の日の夜に何としても見て欲しかった。今夜、仕事から戻ったケンに改めて見せることはもちろん可能だが、タイミングを逸した感は否めず、なんだか間が抜けている気がする。やっぱり祭り夜に、非日常の締めくくりとして披露しなければならなかったのだ。
これだ。この祭りの後に再び始まる日常の感覚が、子供の頃から大嫌いだった。いつまでも祝祭空間が続かないのなら、いっそ初めからない方がいいかもしれない。
そんなことを考えながら、もぞもぞとベッドから這い出ると、部屋は身震いするほど寒かった。
今年の秋は比較的暖かい日が多かったため、まだストーブの用意はしてなかった。舞子はあわててパジャマを脱ぎ捨てるとジャージにトレーナーという、楽で大好きな家着スタイルに着替えた。やっぱり楽こそ一番。女子失格だよなぁ、という堕落感さえ心地よく感じるほど開き直っていたものの、この家にケンが来てからは極力封印してきた格好だった。
それでもまだ寒かったので、お気に入りの羽毛入りのはんてんを羽織って、手をこすり合わせながら階段を下りていった。
先ずは、目覚めの一杯が必要だ。濃い目のコーヒーを母さんに淹れてもらって・・・。

店に客はいなかったが暖房が入っており、その暖かさに舞子はほっとした。
「おはよ~」
ばつが悪そうに小声で言った。
「おそよ~」
「すみません・・・あの、もしお手すきでしたらコーヒーを淹れて頂けますと」
わざとかしこまってみせる舞子。
「はいはい、お嬢さま」
悦子も呆れながら応えた。