店の照明をつけようとする舞子をケンが制した。どうして?と問いたげな表情の舞子にケンは言った。
「このままがいいね。明るくしたら、せっかくのキレイ台無しになるね」
「そう?分かった。でもちょっと暗いし・・・」
舞子は、しばらく思案していいアイディアを思いついた。
「じゃぁさ、このステンドグラスの明かりと、あとロウソクがあるから、それでどう?」
「キャンドル?いいねぇ」
昨年のクリスマスシーズンにまとめ買いしたグラスキャンドルが余っているのを、舞子は覚えていた。暗がりの中で奮闘しながら、カウンターの下にしまわれていたキャンドルと着火式ライターをようやく見つけ出した。
「ふぅ~、あったよー」
そう言いながら、さっそく火をともしてみたが、キャンドル一つではほとんど明かりの役目を果たさないのがすぐに分かった。
「全部使っちゃえ」
舞子は、ありったけのキャンドルに火をつけると、暗い店内のあちらこちらに設置していった。店の奥の方の席にも置いてみた。健気にゆらめく火が愛おしかった。
同時に、こんなに小さな火が、例えわずかな範囲であっても、暗闇に負けず明かりを投げかけている様子に頼もしさを感じた。
店内が柔らかく温かみのある色にぼんやりと照らされた。
やがてキャンドルのアロマがかすかに漂ってきた。
「素敵・・・」
「ゲルニカの木」は、現実離れした美しい空間となった。
このムードに便乗すれば、ケンの目を見ながら「ステンドグラスを観て下さい。これは昔、あなたが聞かせてくれたお話を題材にした作品なのです」と、そう素直に言える気がする。
そして、自分でも確信は持てないけれど、胸の内に確かに存在する思いを伝えられるかもしれない。
それを伝えてしまったら、ケンがどのように受け止め、答えを返してくれようとも、もう今のままではいられない。その恐怖は依然としてある。でも、それでも今は、思いを伝えたい欲望が勝っているみたいだ。
『希望のゲルニカ』の近くのテーブルには、皿に盛られたサンドイッチがラップにくるまれて用意されてあった。シャンパンとワインのボトルが、氷の入ったクーラーに斜めに寝かされて良く冷えている。その隣に悦子の書き置きがあった。
おかえりなさい。舞子の十二遣徒、ステキでしたよ。花火は楽しみましたか?
先に休みます。お腹が空いてたらサンドイッチをどうぞ 母より
「お腹空いたね。かあさんがサンドイッチ作ってくれたみたい」
「いいねぇ。もぉハングリー。お腹ペカペカ・・・だっけ?」
「ははっ」
舞子は思わず笑ってしまった。
「それを言うならペコペコ」
「Oh、お腹ペコペコね」
「じゃあ、さっそく頂くとしますか。シャンパンもあるし。乾杯しよ」
舞子はグラスにジャンパンを注ぎながら、自分の手が微かに震えているのに気がついた。ケンに悟られてなければいいのだけど。ケンは何も言わずにその様子を見守っていたが、舞子はなんだかそわそわと落ち着かない気分だった。ジャンパンでもワインでも何でもいいから、ちょっとアルコールの力を借りないと、とてもじゃないけど気持ちが持たないわ。
「さて、それではケンさん」
言いながら、シャンパンがなみなみと注がれたグラスをケンに渡した。
「このままがいいね。明るくしたら、せっかくのキレイ台無しになるね」
「そう?分かった。でもちょっと暗いし・・・」
舞子は、しばらく思案していいアイディアを思いついた。
「じゃぁさ、このステンドグラスの明かりと、あとロウソクがあるから、それでどう?」
「キャンドル?いいねぇ」
昨年のクリスマスシーズンにまとめ買いしたグラスキャンドルが余っているのを、舞子は覚えていた。暗がりの中で奮闘しながら、カウンターの下にしまわれていたキャンドルと着火式ライターをようやく見つけ出した。
「ふぅ~、あったよー」
そう言いながら、さっそく火をともしてみたが、キャンドル一つではほとんど明かりの役目を果たさないのがすぐに分かった。
「全部使っちゃえ」
舞子は、ありったけのキャンドルに火をつけると、暗い店内のあちらこちらに設置していった。店の奥の方の席にも置いてみた。健気にゆらめく火が愛おしかった。
同時に、こんなに小さな火が、例えわずかな範囲であっても、暗闇に負けず明かりを投げかけている様子に頼もしさを感じた。
店内が柔らかく温かみのある色にぼんやりと照らされた。
やがてキャンドルのアロマがかすかに漂ってきた。
「素敵・・・」
「ゲルニカの木」は、現実離れした美しい空間となった。
このムードに便乗すれば、ケンの目を見ながら「ステンドグラスを観て下さい。これは昔、あなたが聞かせてくれたお話を題材にした作品なのです」と、そう素直に言える気がする。
そして、自分でも確信は持てないけれど、胸の内に確かに存在する思いを伝えられるかもしれない。
それを伝えてしまったら、ケンがどのように受け止め、答えを返してくれようとも、もう今のままではいられない。その恐怖は依然としてある。でも、それでも今は、思いを伝えたい欲望が勝っているみたいだ。
『希望のゲルニカ』の近くのテーブルには、皿に盛られたサンドイッチがラップにくるまれて用意されてあった。シャンパンとワインのボトルが、氷の入ったクーラーに斜めに寝かされて良く冷えている。その隣に悦子の書き置きがあった。
おかえりなさい。舞子の十二遣徒、ステキでしたよ。花火は楽しみましたか?
先に休みます。お腹が空いてたらサンドイッチをどうぞ 母より
「お腹空いたね。かあさんがサンドイッチ作ってくれたみたい」
「いいねぇ。もぉハングリー。お腹ペカペカ・・・だっけ?」
「ははっ」
舞子は思わず笑ってしまった。
「それを言うならペコペコ」
「Oh、お腹ペコペコね」
「じゃあ、さっそく頂くとしますか。シャンパンもあるし。乾杯しよ」
舞子はグラスにジャンパンを注ぎながら、自分の手が微かに震えているのに気がついた。ケンに悟られてなければいいのだけど。ケンは何も言わずにその様子を見守っていたが、舞子はなんだかそわそわと落ち着かない気分だった。ジャンパンでもワインでも何でもいいから、ちょっとアルコールの力を借りないと、とてもじゃないけど気持ちが持たないわ。
「さて、それではケンさん」
言いながら、シャンパンがなみなみと注がれたグラスをケンに渡した。