そう言いながら妹尾は、袋から取り出した銀玉を装填して一発撃ってみた。バネの響く音と共に発射された銀の玉は、緩い放物線を描きながら数メートル先の地面に落ちて転がった。ケンの方を見てにっこりと笑う妹尾。
「どうだい?」
「なるほど、そいつは確かに面白そうだね」
妹尾の無邪気な笑い顔につられて、ケンの中の子供心が目を覚ました。
「俺は鬼か・・・あんたに反撃できないのかい?」
「もちろんできるさ。先に撃たれた方が負けってルールでどう?」
「はは、いいね」
ケンは、渡されたワルサーの引き金を人差し指に引っ掛けると、くるくると回してみせた。子供の頃、兄と競って練習した技は何年経っても体が憶えているようだ。
「お、さすが元海兵隊。やるじゃない」
「おいおい妹尾さん、本物の兵士はこんなまねはしないよ」
「そうなの?」
「これは小さい頃にテレビで観た西部劇の影響さ。悪党を倒した主人公が決まってガンスピンをしてみせるんだ。その姿に憧れて夢中で練習したもんだよ」
他愛もない会話をしながら夜道を歩く二人は、童心に返ったように心からわくわくしていた。妹尾にとってもケンにとっても、久しく味わうことのなかった気持ちだった。
花火大会の会場となる小学校の広大なグランドには、すでに大勢の見物客が集まっており、天ヶ浜奉納祭の最後を締めくくるに相応しい賑わいを見せていた。
祭りのやぐらにくくり付けられたスピーカーからは、祭りばやしの録音テープが流されて会場の雰囲気を盛り上げている。立ち入り禁止のテープで囲われた四十平方メートルくらいの区画の中央には、たくさんの打ち上げ花火が設置されているのが見える。
やがてスピーカーが、十分後に花火大会が始まるのを告げた。
「さて、ケンさん、花火大会が始まる前に楽しむとしよう」
「そうしよう、妹尾さん。ところでハンデをあげなくていいのかな。遊びとは言え、こちらは元軍人なんだがね」
ケンは冗談交じりに言った。
「ハンデは要らないよ。但し、遊び場は決めさせてくれ」
「というと?」
「グランドは人が多いから、校舎の裏側の方でやるとしよう。俺はここで三十まで数えたら、そっちの方に探しに行くから」
「裏側というと向こう側か・・・暗いね」
「だからこそ面白いんじゃない」
「なるほど。OK、さっそく始めるとしよう」
ケンは、先程買ってもらったヒーローのお面を被ると、素早い身のこなしであっという間に校舎脇の暗闇に消えていった。その後ろ姿は、はやる心を抑えて遊び場に向かう少年のようだった。
心の中でカウントしながら、妹尾は、今自分がやろうとしている事に気づいてはっとした。
計画していたわけではない。だが、自分でも気づかないうちに、掃除屋の仕事を遂行しようとしているのかもしれない。
自分がケンを鬼ごっこに誘った理由はそれなのか。
人気のない暗闇の中でケン・オルブライトに向けるのは銀玉鉄砲ではなく、隠し持っているP7M8の方なのか。
その瞬間がくるまで、何が起こるのかは自分にさえ予想がつかなかった。
「・・・二十八、二十九、三十」
妹尾は、ケンが消えた校舎脇とは反対側にゆっくりと慎重な足取りで向かった。舞子との待ち合わせのことなど、二人の頭の中からはすっかり消えていた。
「どうだい?」
「なるほど、そいつは確かに面白そうだね」
妹尾の無邪気な笑い顔につられて、ケンの中の子供心が目を覚ました。
「俺は鬼か・・・あんたに反撃できないのかい?」
「もちろんできるさ。先に撃たれた方が負けってルールでどう?」
「はは、いいね」
ケンは、渡されたワルサーの引き金を人差し指に引っ掛けると、くるくると回してみせた。子供の頃、兄と競って練習した技は何年経っても体が憶えているようだ。
「お、さすが元海兵隊。やるじゃない」
「おいおい妹尾さん、本物の兵士はこんなまねはしないよ」
「そうなの?」
「これは小さい頃にテレビで観た西部劇の影響さ。悪党を倒した主人公が決まってガンスピンをしてみせるんだ。その姿に憧れて夢中で練習したもんだよ」
他愛もない会話をしながら夜道を歩く二人は、童心に返ったように心からわくわくしていた。妹尾にとってもケンにとっても、久しく味わうことのなかった気持ちだった。
花火大会の会場となる小学校の広大なグランドには、すでに大勢の見物客が集まっており、天ヶ浜奉納祭の最後を締めくくるに相応しい賑わいを見せていた。
祭りのやぐらにくくり付けられたスピーカーからは、祭りばやしの録音テープが流されて会場の雰囲気を盛り上げている。立ち入り禁止のテープで囲われた四十平方メートルくらいの区画の中央には、たくさんの打ち上げ花火が設置されているのが見える。
やがてスピーカーが、十分後に花火大会が始まるのを告げた。
「さて、ケンさん、花火大会が始まる前に楽しむとしよう」
「そうしよう、妹尾さん。ところでハンデをあげなくていいのかな。遊びとは言え、こちらは元軍人なんだがね」
ケンは冗談交じりに言った。
「ハンデは要らないよ。但し、遊び場は決めさせてくれ」
「というと?」
「グランドは人が多いから、校舎の裏側の方でやるとしよう。俺はここで三十まで数えたら、そっちの方に探しに行くから」
「裏側というと向こう側か・・・暗いね」
「だからこそ面白いんじゃない」
「なるほど。OK、さっそく始めるとしよう」
ケンは、先程買ってもらったヒーローのお面を被ると、素早い身のこなしであっという間に校舎脇の暗闇に消えていった。その後ろ姿は、はやる心を抑えて遊び場に向かう少年のようだった。
心の中でカウントしながら、妹尾は、今自分がやろうとしている事に気づいてはっとした。
計画していたわけではない。だが、自分でも気づかないうちに、掃除屋の仕事を遂行しようとしているのかもしれない。
自分がケンを鬼ごっこに誘った理由はそれなのか。
人気のない暗闇の中でケン・オルブライトに向けるのは銀玉鉄砲ではなく、隠し持っているP7M8の方なのか。
その瞬間がくるまで、何が起こるのかは自分にさえ予想がつかなかった。
「・・・二十八、二十九、三十」
妹尾は、ケンが消えた校舎脇とは反対側にゆっくりと慎重な足取りで向かった。舞子との待ち合わせのことなど、二人の頭の中からはすっかり消えていた。