初めて食べるたこ焼きは、ケンにはそれほどうまいものではなかったが、その横でさも美味しそうに頬張る舞子を見ているだけで充分だった。
これから人前に立つっていうのにたこ焼きなんか食べちゃって、歯に青のりでも付いてたらどうしよう。舞子はちょっと不安になりながらも、空腹には勝てなかった。ケンに見えないように、こっそりと手鏡で歯や口の周りをチェックして安心した舞子は、空腹も満たされてほっと一息ついた。
「提灯の明かりがきれいだね」
そう言いながら、気持ちに余裕が出てきた舞子は、辺りを見渡す振りをしつつ隣に立つケンの方を盗み見た。
ケンも、日本の祭りというものに心を奪われているようだ。それは彼の表情からも見て取れた。初めて会った頃の、若い海兵隊員だったケンを思い出させるような、どこか無邪気な印象だった。あの時のケンが戻ってきたような気がして、舞子は嬉しくなった。
湧き上がる喜びが、自分を衝動的に大胆な行動に駆り立てそうだった。だが、それでもケンと腕を組むほどの度胸はなかった。ケンの方だってそんな素振りは見せようとしない。
もし、彼の方から腕を組んできたら、それはそれで嬉しいけど、でもびっくりしてしまう。その後、どうケンさんに接していいのかも分からなくなってしまうし、変に積極的なケンさんは、なんだか彼らしくないとも思う。やっぱり、今のわたしたちの距離感が丁度いいのかな。
舞子は、あれこれと妄想しながら、頭でっかちでいつでも考えすぎてしまう自分に毎度ながらうんざりしていた。でも、これがわたしなのだから仕方ない。
「そこのお二人さん」
ケンと舞子が揃って声の方を向くと、そこには一眼レフカメラを手にした妹尾が立っていた。
「あ、妹尾さんだ。こんばんわ」
舞子の言葉と同時に、妹尾はシャッターを切った。
「あ、やられた」
その言葉にも答えずに、連続してシャッターを切る妹尾。舞子は照れながら顔を背けた。
「モデル料、高いんですけどぉ」
「まぁ、そう言わずに。せっかくお似合いの美男美女を見つけたんだから」
「いい写真、撮れてますか?」
「うん、もうバッチリ」
「良かった。タウン誌でしたっけ・・・完成したら送ってくれませんか?」
「もちろん送るよ、お楽しみにね。それよりケンさん、昨日はどうも。雨の中頑張ったのに残念でしたね」
そう言いながら妹尾は、片手で釣り竿をあやつるような身振りを示した。
「妹尾さん、どーも。フィッシング。天気よくなかったからダメね」
昨日、雨の防波堤でケンが妹尾に語って聞かせた話など、何もなかったかのように振舞う妹尾に対し、ケンもあくまで自然に返した。
「まぁ、あの雨だったから。それでも舞子ちゃんの作ってくれたサンドイッチのおかげでちょっとしたピクニック気分になったね。雨の中のピクニック」
「そう。おいしかった。舞のサンドイッチ」
「ほんと?良かった」
妹尾とケンが軽く視線を合わせたのを、舞子は見逃さなかった。
「え、何なに?その意味深な・・・ほんとに美味しかった?」
「うん、そりゃもう、ねぇケンさん」
ケンは笑いながらサムズアップで答えた。
これから人前に立つっていうのにたこ焼きなんか食べちゃって、歯に青のりでも付いてたらどうしよう。舞子はちょっと不安になりながらも、空腹には勝てなかった。ケンに見えないように、こっそりと手鏡で歯や口の周りをチェックして安心した舞子は、空腹も満たされてほっと一息ついた。
「提灯の明かりがきれいだね」
そう言いながら、気持ちに余裕が出てきた舞子は、辺りを見渡す振りをしつつ隣に立つケンの方を盗み見た。
ケンも、日本の祭りというものに心を奪われているようだ。それは彼の表情からも見て取れた。初めて会った頃の、若い海兵隊員だったケンを思い出させるような、どこか無邪気な印象だった。あの時のケンが戻ってきたような気がして、舞子は嬉しくなった。
湧き上がる喜びが、自分を衝動的に大胆な行動に駆り立てそうだった。だが、それでもケンと腕を組むほどの度胸はなかった。ケンの方だってそんな素振りは見せようとしない。
もし、彼の方から腕を組んできたら、それはそれで嬉しいけど、でもびっくりしてしまう。その後、どうケンさんに接していいのかも分からなくなってしまうし、変に積極的なケンさんは、なんだか彼らしくないとも思う。やっぱり、今のわたしたちの距離感が丁度いいのかな。
舞子は、あれこれと妄想しながら、頭でっかちでいつでも考えすぎてしまう自分に毎度ながらうんざりしていた。でも、これがわたしなのだから仕方ない。
「そこのお二人さん」
ケンと舞子が揃って声の方を向くと、そこには一眼レフカメラを手にした妹尾が立っていた。
「あ、妹尾さんだ。こんばんわ」
舞子の言葉と同時に、妹尾はシャッターを切った。
「あ、やられた」
その言葉にも答えずに、連続してシャッターを切る妹尾。舞子は照れながら顔を背けた。
「モデル料、高いんですけどぉ」
「まぁ、そう言わずに。せっかくお似合いの美男美女を見つけたんだから」
「いい写真、撮れてますか?」
「うん、もうバッチリ」
「良かった。タウン誌でしたっけ・・・完成したら送ってくれませんか?」
「もちろん送るよ、お楽しみにね。それよりケンさん、昨日はどうも。雨の中頑張ったのに残念でしたね」
そう言いながら妹尾は、片手で釣り竿をあやつるような身振りを示した。
「妹尾さん、どーも。フィッシング。天気よくなかったからダメね」
昨日、雨の防波堤でケンが妹尾に語って聞かせた話など、何もなかったかのように振舞う妹尾に対し、ケンもあくまで自然に返した。
「まぁ、あの雨だったから。それでも舞子ちゃんの作ってくれたサンドイッチのおかげでちょっとしたピクニック気分になったね。雨の中のピクニック」
「そう。おいしかった。舞のサンドイッチ」
「ほんと?良かった」
妹尾とケンが軽く視線を合わせたのを、舞子は見逃さなかった。
「え、何なに?その意味深な・・・ほんとに美味しかった?」
「うん、そりゃもう、ねぇケンさん」
ケンは笑いながらサムズアップで答えた。