地元の子供たちが、先を競ってお目当ての品を買っている。大きな声で笑いながら金魚すくいに興じるカップル。長椅子に腰を下ろして、何をするでもなくぼーっと祭りの景色を眺めるお年寄り。小さな子供を肩車して石段を上がって行く父親。天懇献呈の儀を見物するために、遠くから足を運んだ旅行者。この場にいるみんなが幸せそうに見えた。
舞子は、こんなことならもっと前から素直に祭りを楽しんでおけばよかったと、少しだけ後悔した。
ケンが、露店に陳列されている子供用のお面に興味を示した。
「面白いマスクだね」
「お面のこと?欲しい?」
「被ると、別の人にチェンジできる。楽しいね」
「ケンさん、別人になりたいわけ?」
そう言いながら、舞子は笑った。
マスクを被ったくらいで別人になれるのならば、人生どれほど楽なことだろうとケンは思った。
人間は簡単には変われない。変わろうとしても記憶や過去が、亡霊のように絡みついてくる。やがて、過去に囚われることが普通になり、自らの意思で過去に生きてしまうから人間とは厄介な生き物だ。それはまさに今の俺だ。
それでもフェスティバルの最中なら、もしかしたら別人になれるかもしれない。そんなマジックが起こり得るかもしれない。ケンはそう信じたかった。
「イエス。別人になりたいね、全く違う人になる」
きっぱりと言い切るケンに、舞子はちょっと驚いた。
「了解。じゃあ、買おうか。どれがいいですか?」
しばらく迷っていたケンが、舞子に聞いた。
「あれは何のマスク?あのレッドの・・・」
「ああ、あれ。よく知らないけど、多分テレビでやってるヒーローのお面かな」
「ヒーロー?」
「そう、正義の味方。悪い連中をやっつける強いヒーロー」
あの時、俺にもそんなヒーローみたいな強さがあれば、フォース・リーコンの仲間たちを救うことができただろうか。
結局、ケンは赤色のヒーローのお面を、舞子は大きな耳とふっくらしたほっぺが特徴的なネズミの坊やのお面を選んだ。
ことお金に関しては貸し借りが嫌いな性格のケンは、自分のお面の代金を払おうとした。そこで財布を持たずに出てきたことに気がついた。
「あー、舞、ごめん。やっぱりやめとくよ」
「え?何で」
「財布。持ってないね」
「なんだ、そんなことか。大丈夫、わたしが買ってあげるよ」
「あー、舞、では、帰ったらお金返すからね」
「いいって、高い買い物じゃないし」
「金額の問題じゃないからね」
露店の兄さんは、こんな玩具のお面を買うの買わないので何を揉めているのやらと、不思議そうに二人を眺めていた。
「あら、そう?分かった。じゃぁ、とりあえずわたしが立て替えておくってことでいいね」
「サンキュー、舞」
ようやくケンも納得したようだった。
二人は早速、買ったばかりのお面を被ってお道化てみた。
お面越しなら、ケンさんのこと、しっかり見られるのにな。舞子は自分の中でますます大きくなる気持ちを持て余した。でも、それを口に出して相手に伝えられる気は到底しなかった。だからこそ、そんな思いも一緒に込めて狼のステンドグラスを造ったのだ。
舞子は、こんなことならもっと前から素直に祭りを楽しんでおけばよかったと、少しだけ後悔した。
ケンが、露店に陳列されている子供用のお面に興味を示した。
「面白いマスクだね」
「お面のこと?欲しい?」
「被ると、別の人にチェンジできる。楽しいね」
「ケンさん、別人になりたいわけ?」
そう言いながら、舞子は笑った。
マスクを被ったくらいで別人になれるのならば、人生どれほど楽なことだろうとケンは思った。
人間は簡単には変われない。変わろうとしても記憶や過去が、亡霊のように絡みついてくる。やがて、過去に囚われることが普通になり、自らの意思で過去に生きてしまうから人間とは厄介な生き物だ。それはまさに今の俺だ。
それでもフェスティバルの最中なら、もしかしたら別人になれるかもしれない。そんなマジックが起こり得るかもしれない。ケンはそう信じたかった。
「イエス。別人になりたいね、全く違う人になる」
きっぱりと言い切るケンに、舞子はちょっと驚いた。
「了解。じゃあ、買おうか。どれがいいですか?」
しばらく迷っていたケンが、舞子に聞いた。
「あれは何のマスク?あのレッドの・・・」
「ああ、あれ。よく知らないけど、多分テレビでやってるヒーローのお面かな」
「ヒーロー?」
「そう、正義の味方。悪い連中をやっつける強いヒーロー」
あの時、俺にもそんなヒーローみたいな強さがあれば、フォース・リーコンの仲間たちを救うことができただろうか。
結局、ケンは赤色のヒーローのお面を、舞子は大きな耳とふっくらしたほっぺが特徴的なネズミの坊やのお面を選んだ。
ことお金に関しては貸し借りが嫌いな性格のケンは、自分のお面の代金を払おうとした。そこで財布を持たずに出てきたことに気がついた。
「あー、舞、ごめん。やっぱりやめとくよ」
「え?何で」
「財布。持ってないね」
「なんだ、そんなことか。大丈夫、わたしが買ってあげるよ」
「あー、舞、では、帰ったらお金返すからね」
「いいって、高い買い物じゃないし」
「金額の問題じゃないからね」
露店の兄さんは、こんな玩具のお面を買うの買わないので何を揉めているのやらと、不思議そうに二人を眺めていた。
「あら、そう?分かった。じゃぁ、とりあえずわたしが立て替えておくってことでいいね」
「サンキュー、舞」
ようやくケンも納得したようだった。
二人は早速、買ったばかりのお面を被ってお道化てみた。
お面越しなら、ケンさんのこと、しっかり見られるのにな。舞子は自分の中でますます大きくなる気持ちを持て余した。でも、それを口に出して相手に伝えられる気は到底しなかった。だからこそ、そんな思いも一緒に込めて狼のステンドグラスを造ったのだ。