「ケン坊、直行便でひとっ飛びだ!ファーストクラスってわけにはいかんがな」
ケンの耳元でそうどなりながら、ボブはウィンクしてみせた。
だが次の瞬間、そんなボブの顔が苦痛に歪み、次にケンの上に被さるように崩れ落ちてきた。
それを見たダニエルズが大声で叫んだ。
「衛生兵!」
もう一機のヘリにいたデルタの衛生兵が、銃火をかいくぐりながらこちらに来ると、すぐさまボブに応急処置を施した。
息はある。だが生き延びても五体満足とはいかないだろう。
残酷な現実を幾度となく見てきた衛生兵は、動じることもなくその場でできる処置に専念した。
その様子を茫然と眺めながら、ケンは声にならない声で叫んだ。
頼む、死ぬな、ボブ!
あの位置にボブがいなければ、俺が被弾していただろう。
いや、それ以前にボブがここまで運んでくれなければ、俺はジャングルの中でとっくにくたばっていたのだ。
二度も俺の命を救ってくれたボブを、絶対に死なせるわけにはいかない。

リックと、二人のリーコン隊員が最後の反撃に転じていた。
ライフルは予備の弾倉まで撃ち尽くしており、今では腰につけたガバメントを抜いていた。戦場においては護身用以外に実用性のない拳銃さえも使わざるをえないほど追い詰められていた。
待機する二機のヘリまでは約三十メートル。
敵の銃火が正確性を増すこの状況では、決して辿り着けないのは明らかだった。
リック自身がそのことを誰よりも理解しながら、今は不思議と冷静で安らぎに似た感情を味わっていた。
横を見れば、長年苦楽を共にしてきた二人の仲間が勇敢に戦っている。こんな男たちと一緒に最後の時を迎えられるのは、兵士の死に様としては悪くない。
その時、木々の間からRPGを担いだ兵士が現れ、ブラックホークに狙いを定めるのが見えた。
リックはとっさにガバメントを撃ちまくったが、この距離と状況からして命中させるのは不可能だった。
だが、RPGが発射される前に、後方のヘリからデルタ狙撃兵がこれを倒した。
リックがほっと胸を撫でおろした瞬間、敵のライフル弾が右の太腿に命中した。
右足から力が抜けたリックは、崩れるように地面に片膝をついた。
あとの二人も、これとほとんど同時に撃たれて死んだ。
すでに絶命している彼らの体が、地面に向かって倒れてゆく様子が、リックの目にはスローモーションのように映った。
後方では、ヘリの一機が離陸して行くのが、遠のいてゆくローター音で分った。
戦って死ねることの幸せが、リックに太腿の痛みを感じさせなかった。
進退窮まったその時、リックの心を占めていたのは、死への恐怖や絶望でもなければ、最後まであきらめずに戦ったことに対する誇りでもなかった。
弟は無事にヘリに乗れただろうか。
たった一つ、その事だけを考え、心配していた。

ダニエルズの眼の前では、ヴァイパー最後の三人が木々の裏側に隠れる敵に向かって、果敢に銃撃を浴びせていた。だが、どう贔屓目に見ても劣勢は明らかだった。それどころか、死が彼らの目前に着々と迫っている。
時間がない。早くここまで来い!
ダニエルズは心の中で、祈るように叫んだ。