だがクレイモア地雷をもってしても、敵の追撃を沈黙させ続けることはできなかった。
一分もすると、生き残った元スペツナズが指示を出し、敵は再び隊列を整えて追撃を開始した。

アルファ・ワンでは、すでに第160特殊作戦航空連隊(ナイトストーカー)の凄腕パイロットが操縦する二機のブラックホークヘリが待機しており、メインローターがふりしきる雨を辺り一面に弾き飛ばしていた。
すでにデルタの八名と救出された捜査官、そしてこの惨事の引き金を引いたコロンビア軍士官が分乗して、ケンたちが戻るのを辛抱強く待っていた。
ローターが出す騒音が全ての音をかき消していたが、それでもダニエルズの耳にはバズーカ砲やクレイモア地雷の炸裂音が届いていた。
ジャングル移動に関しては米軍一の能力を誇るフォース・リーコンがまだ到着しない。のっぴきならない状況に追い込まれているのは確実だ。
開けた台地の端からヘリに向かって設置されたケミカルライトが、美しい蛍光グリーンに発光している。ここまで辿り着いたヴァイパーが、闇の中を最短距離でヘリまでこられるように設けた道しるべだ。
ブラックホークの縁に腰掛けたデルタの隊員たちは、死に物狂いでこちらに向かっているであろう同胞を援護すべく、アサルトライフルを構えて、その時を待っていた。
今回の作戦では、帰還時にブラックホークに搭乗する人数が通常の作戦よりも多い。そのため燃料の問題から武器を搭載できなかった。
また、やはり燃料的にジャングル奥地までの飛行が不可能なため、アパッチなどの攻撃ヘリが護衛に着くこともできなかった。
つまり、頼れる武器はこのアサルトライフルだけだった。
刻一刻と時が過ぎて行く。この場に留まれるのは長くてもあと十分程度だろう。0430時になればホーネットが空母を発進する。そしてその数分後には空対地ミサイル、マーベリックがこの辺り一帯を火の海に変える。
急げ。ダニエルズはヴァイパーの一刻も早い到着をひたすら祈っていた。

走っては振り返って撃ち、撃ってはまた向き直って走る。機械のような正確さで動作を繰り返しながら、アルファ・ワンを目指すヴァイパーの生き残りたち。
先頭をゆくリックのすぐ後ろで、また一人仲間が倒れた。
これで何人目だろう。
決して戦場に仲間を置き去りにしない。それはアメリカ軍に入隊した誰もが胸に刻む軍規である。
だが、その軍規ゆえに悲劇が生まれるのもまた事実だ。無理を承知で仲間の救出に向かって死んだ兵士や全滅したチームはいくらでもある。それは犬死ではないのか。
全滅してしまっては元も子もない。助けに戻ることはできないのだ。
引き裂かれるような思いで、仲間をその場に残しながら先頭を走るリック。
とにかく生き残るのだ、自分がダメでもケンだけは祖国に帰してみせる。俺はあいつの兄なのだから。
リックの後ろを二名の隊員が走っていた。
彼らの、さらに数メートル後ろにケンの姿を認めて、リックはほっとした。
そして最後尾のボブが、鬼のような形相で必死にケンについてきていた。
十二人いたヴァイパーだが、今や残っているのはこの五人だけだった。
その誰もが体力的限界を迎えつつあった。