AK独特の甲高い発射音が雨音を切り裂いて響いてくる。
敵との距離はおよそ百メートル。
射撃はかなり正確で、ケン達の付近に生い茂る樹木の幹に命中しては、パスパスと不気味な音を立てている。
「このままじゃ、やられちまうぜ、リック」
ボブが大声で怒鳴った。
リックもケンも、他の全員が反撃したい気持ちを必死で押さえていた。
十分な弾薬と、時間的な余裕があれば彼らは追ってくる武装集団を迎え撃っただろう。だが偵察を任務とし長期間敵地に潜入するフォース・リーコンは、その性質上、携行する武器、弾薬は最小限にとどめなければならない。武器の代わりに携帯するのは無線などの電子機器や衛星通信システム。そして一週間でもジャングルで活動できるだけの食料である。
主力武器がM16A4ライフルで、弾倉は四つのみ。サイドアームの拳銃にM1911を一丁。それが全てだった。
心もとない武器を最後の切り札とし、ケンたちは可能な限り逃げまくった。
だが、敵の射撃がますます精度を上げてきた。
こんな芸当ができるのは元スペツナズの傭兵に違いない。
こちらの位置は完全に把握されているらしい。
このままでは温存している武器を使う前に殺される。
そう判断したリックは、移動し続けながら、チームの全員に、敵を攻撃しながら退却すると告げた。
その知らせに、死と隣り合わせの危機にあってなお胸を躍らせながら、ヴァイパーの十二人が暗視ゴーグルを外した。ジャングルを強力なライトで照らしながら追撃してくる敵と対面する以上、光を増幅させる暗視装置はむしろ視力を奪われる危険があるからだ。
彼らは、まるで一匹の巨大な蛇を思わせる滑らかな動きで二列縦隊になるや、最後尾のケンとボブが、後方八十メートルに迫る集団に向けて射撃を開始した。
敵は有効射程距離内だが、降りしきる雨と密林が邪魔して十分な打撃を与えるには及ばなかった。
ケンとボブが縦隊の先頭まで駆け上がると、次に最後尾になった二人が同じように後方に向けて射撃する。
彼らは交互に射撃と移動を繰り返しながら、ひたすらアルファ・ワンを目指した。
そこには恐怖も興奮もなかった。ただ訓練で死ぬほど繰り返した動作を行うだけだった。
ケンたちの反撃は敵の足を鈍らせはしたが、同時に闇に瞬くマズルフラッシュ(発火炎)がこちらの位置を敵に知らせることにもなる。
アルファ・ワンまであと三百メートルというところで、敵が対戦車バズーカを使用した。
一瞬、大地が割れたかと錯覚するほど凄まじい衝撃が、ヴァイパーの十二人を襲った。
そのたった一発で、二列縦隊の後方にいた四名の隊員が即死した。
火薬と肉の焼ける臭いが辺りを漂い、樹木がチロチロと燃えていた。
爆風で傍らの大木に叩きつけられたケンが、胸の辺りを抑えて咳込みながら何とか立ち上がろうとした。だが、甲高い耳鳴りのせいで平衡感覚が失われ、無様に尻もちをついた。
「なんてこった」
隣では、ボブが茫然としながら呟くと、赤く濡れたボロ雑巾のように横たわる塊を見つめていた。ほんの三十秒前までは、長年苦楽を共にしてきた世界一勇敢な男たちだった。それが今では血濡れの肉塊でしかない。
「ボブ、しっかりしろ!」
リックが耳元で怒鳴った。我を取り戻したボブは、ゆっくりと深呼吸しながらライフルを三点連射に切り替えると、後方の敵目がけて撃ちまくった。