ボブが後を継いだ。
「ジャングル暮らしも悪くないぜ。税金払う必要もなさそうだしな」
その時、工場の方から強力な人工の明かりが射してきた。
見ると、工場を囲む塀の上に、一定間隔で設置された全ての投光器の電源が入れられたようだった。そのうちのいくつかはこちらの方向に直接向けられている。
闇の中に浮かび上がる、大自然の中の人工的建造物は非現実的な美しさだった。ケンは圧倒されながら思わず見惚れてしまった。
だが、続いて聞こえてきたざわめきが、すぐさまケンを現実に引き戻した。
武装した一団が隊伍を整えて、こちらに向かってくるのが見えた。
総勢で五十名近くいるようだ。工場作業員も混じっているようだが、それにしてはどうも様子が違う。
その動きは素人のそれではなかった。手にしているのはAK47アサルトライフルなどロシア製の武器が中心だが、中には一体どんなルートで入手したのか、米軍の対戦車バズーカAT4を担いでいる者もいた。
大型のマグライトが描く光の筋を交錯させながら、武装集団はまっすぐにケン達の方向に向かってくる。
「全力で離脱だ」
「言われるまでもねぇ」
リックの号令にボブが答えた。
暗視ゴーグルを装着した十二人のフォース・リーコンがジャングルの悪路を走り始めた。目指すは一㎞先のアルファ・ワン。そこにはブラックホークが待機しているはずだ。
彼らの出発と同時に雨が降り始めた。作戦開始時には明るい月が出ていたにもかかわらず、雨脚は徐々に強まりやがて豪雨となった。
リック達ヴァイパーにとって致命的に不運だったのは、この神の鉄槌作戦が実行されたタイミングだった。
彼らが麻薬工場の監視任務につくちょうど前日に、総勢十五名の屈強な男たちを乗せた三機のセスナが、工場近くの滑走路に降り立った事実は、潜入していた捜査官さえ気づかなかったのだから、米軍側には知る由もなかった。
彼らの正体は、パブロ・エスコバルに雇われて私設軍の一員になった傭兵で、そのほとんどがソ連崩壊で職を失った元スペツナズ(特殊任務部隊)の隊員だった。その目的は、このジャングルの中で、コロンビア最大の反政府武装組織であるコロンビア革命軍(FARC)の戦闘員に軍事訓練を施す事だった。訓練に使用する大量の武器、弾薬も到着しており、それが武器庫に運び込まれるのはケンたちも目撃していた。
FARCはメデジン・カルテルと手を組み、麻薬工場や流通ルートを保護するなどの活動にも従事。その範囲はベネズエラ、パナマ、ブラジルなどの隣国にまで及んでいる。そしてFARCの戦闘員は定期的にメデジン・カルテルが支配するエリアでジャングル戦から市街地戦まで、さまざまな戦闘訓練を受けていた。
FARC戦闘員の到着が、神の鉄槌作戦の翌日だったのは不幸中の幸いだった。仮に、彼らも工場にいたとしたら、間違いなく実戦訓練と称してフォース・リーコン追撃に駆り出されたはずである。
だがFARCはいなくとも、戦闘のプロである十五名の元スペツナズに率いられた五十名からなる武装集団が動き始めたのだ。リックが、絶対に避けたいと考えていた戦闘に突入するのは時間の問題だった。
生い茂る樹木を雨が激しく打ち、騒々しい音を立てていた。これは移動時に出る音をかき消してくれるため、逃げる側には都合がよかった。
反面、時間と共に地面がぬかるみはじめ、只でさえ前進するのが困難な状況に追い打ちをかけた。
ケンたちがアルファ・ワンまでの道のりを半分ほどまで進んだ頃、とうとう後方から銃撃が始まった。
「ジャングル暮らしも悪くないぜ。税金払う必要もなさそうだしな」
その時、工場の方から強力な人工の明かりが射してきた。
見ると、工場を囲む塀の上に、一定間隔で設置された全ての投光器の電源が入れられたようだった。そのうちのいくつかはこちらの方向に直接向けられている。
闇の中に浮かび上がる、大自然の中の人工的建造物は非現実的な美しさだった。ケンは圧倒されながら思わず見惚れてしまった。
だが、続いて聞こえてきたざわめきが、すぐさまケンを現実に引き戻した。
武装した一団が隊伍を整えて、こちらに向かってくるのが見えた。
総勢で五十名近くいるようだ。工場作業員も混じっているようだが、それにしてはどうも様子が違う。
その動きは素人のそれではなかった。手にしているのはAK47アサルトライフルなどロシア製の武器が中心だが、中には一体どんなルートで入手したのか、米軍の対戦車バズーカAT4を担いでいる者もいた。
大型のマグライトが描く光の筋を交錯させながら、武装集団はまっすぐにケン達の方向に向かってくる。
「全力で離脱だ」
「言われるまでもねぇ」
リックの号令にボブが答えた。
暗視ゴーグルを装着した十二人のフォース・リーコンがジャングルの悪路を走り始めた。目指すは一㎞先のアルファ・ワン。そこにはブラックホークが待機しているはずだ。
彼らの出発と同時に雨が降り始めた。作戦開始時には明るい月が出ていたにもかかわらず、雨脚は徐々に強まりやがて豪雨となった。
リック達ヴァイパーにとって致命的に不運だったのは、この神の鉄槌作戦が実行されたタイミングだった。
彼らが麻薬工場の監視任務につくちょうど前日に、総勢十五名の屈強な男たちを乗せた三機のセスナが、工場近くの滑走路に降り立った事実は、潜入していた捜査官さえ気づかなかったのだから、米軍側には知る由もなかった。
彼らの正体は、パブロ・エスコバルに雇われて私設軍の一員になった傭兵で、そのほとんどがソ連崩壊で職を失った元スペツナズ(特殊任務部隊)の隊員だった。その目的は、このジャングルの中で、コロンビア最大の反政府武装組織であるコロンビア革命軍(FARC)の戦闘員に軍事訓練を施す事だった。訓練に使用する大量の武器、弾薬も到着しており、それが武器庫に運び込まれるのはケンたちも目撃していた。
FARCはメデジン・カルテルと手を組み、麻薬工場や流通ルートを保護するなどの活動にも従事。その範囲はベネズエラ、パナマ、ブラジルなどの隣国にまで及んでいる。そしてFARCの戦闘員は定期的にメデジン・カルテルが支配するエリアでジャングル戦から市街地戦まで、さまざまな戦闘訓練を受けていた。
FARC戦闘員の到着が、神の鉄槌作戦の翌日だったのは不幸中の幸いだった。仮に、彼らも工場にいたとしたら、間違いなく実戦訓練と称してフォース・リーコン追撃に駆り出されたはずである。
だがFARCはいなくとも、戦闘のプロである十五名の元スペツナズに率いられた五十名からなる武装集団が動き始めたのだ。リックが、絶対に避けたいと考えていた戦闘に突入するのは時間の問題だった。
生い茂る樹木を雨が激しく打ち、騒々しい音を立てていた。これは移動時に出る音をかき消してくれるため、逃げる側には都合がよかった。
反面、時間と共に地面がぬかるみはじめ、只でさえ前進するのが困難な状況に追い打ちをかけた。
ケンたちがアルファ・ワンまでの道のりを半分ほどまで進んだ頃、とうとう後方から銃撃が始まった。