ここから扉一つ隔てたすぐ内側には、二人の兵士が名ばかりの警備についている。奴らを仕留めるのにはサプレッサー付きの拳銃を使用する。各隊員の好みに合わせてカスタムメイドされた世界に一丁のコルトM1911である。ゲートの扉を乗り越えて、敷地内に着地すると同時に兵士を倒す。連中は何が起こったかを把握する前に絶命するだろう。
そこからタンゴを連れて脱出するまで、早ければ二十秒でケリがつく。あとは音もなくジャングルの闇に紛れ、アルファ・ワンで待つブラックホークヘリに乗り込んで帰投する。朝には美味いコーヒーと温かいベッドがお出迎えだ。
ダニエルズ隊長は、溢れ出すアドレナリンを自在にコントロールするかのような冷静沈着さで、その時を待った。
傍らに待機する隊員も、ゲートの反対側で位置につく二人も冷静そのものだった。
彼らの技量を誰よりも知るダニエルズは、この極限の緊張状態においても落ちつき払い、むしろ安堵さえ感じていた。

工場内の宿舎から、一人の男がふらりと出てくるのが、ケンとボブの位置から確認された。
捜査官=タンゴだ。
男は煙草に火をつけると、門を警備する二人の方に向かって歩きながら、気楽な感じで何事か話しかけている。
塀の向こう側で待機しているデルタから極力、注意をそらせるための行動だった。
ボブはその状況を、骨振動マイクでささやくようにリックに告げた。
リックはそれをダニエルズに伝えた。
いよいよ始まる。

その時、不意に一発の銃声が鳴り響いた。
「馬鹿な!」
悪態をつきながらダニエルズは、この最も重要なタイミングで一体何が起ったのかを把握すべく辺りを見回した。
敵か、味方か。撃ったのは一体誰だ。

工場の三方から監視していたフォース・リーコンの各セルにも、その銃声ははっきりと聞こえた。
工場内で警備につく兵士の耳にも届いたであろうことは、先ほどまでの弛んだ雰囲気から一変した彼らの動きをみれば明らかだった。
銃声から三十秒後には、敷地内の至る所で明かりがつき始め、辺りはにわかに活気づき始めた。
塀の周りを巡回していた兵士も、サブマシンガンを胸の前に構えながら慌ててゲートの方にやってきた。
救出を待つ捜査官は、デルタが突入してくる気配がないのは一体どうしたことだ?と内心ひどく困惑しながらも、かろうじて芝居を続けた。

ボブとケンが見張りに着く位置からは、宿舎からわらわらと人が出てくるのが見えた。
「なぁ、やばいぜ、ボブ」
「ああ。一体デルタの連中はなぜ入ってこない」
ボブは、正面でゲートを監視しているはずのリックに向かってマイク越しに囁いた。
「こちらブラヴォー・ツー。おい、一体どうなってんだ。何が起こってる」

だが、その問いに答えている余裕はリックにはなかった。なにしろ銃声が自分のすぐ横で鳴り響いたのだ。