やがてハーキュリーズはコロンビア上空に到達した。
デルタの八名は、赤外線ゴーグルを装着しながらゆっくりと立ち上がった。
輸送機の後部が開き、機内が轟音に満たされた。
ぽっかりと口を開けた後部ランプドアの先には、月明かりで思いのほか明るい夜空が見えている。
スロープをゆっくりと進む隊員たち。
時刻は0100時きっかり。
降下合図のランプが緑色に変わると、彼らは一切の躊躇もなく、まるで近所の散歩に出かけるかのような調子で、夜空に向かって飛び出していった。

生い茂る樹木と開けた台地。その境目に身をひそめながら上空を見守るケン達、四名のリーコン隊員。
やがて、パラシュートを巧みに操縦しながら降下してくるデルタの姿が見えてきた。
八名のデルタオペレーターは、台地のど真ん中にほとんど音もたてずに着地するやいなや、パラシュートを回収。すぐさまコルトM733アサルトライフルを構え、四方を警戒するフォーメーションをとった。どう動くべきか分からずに立ち尽くして、間抜けな姿をさらしているのはコロンビア軍士官だった。
デルタに合図を送り安全を確認後、ボブを先頭にリーコンの四人が木々の間からそっと姿を現した。
ボブがダニエルズ隊長と最小限の会話を交わし、この後の行動を確認する。
デルタ隊員全八名のうち、狙撃兵を含む四名がこの場に残って離脱時の援護とヘリの誘導につく。
ダニエルズ隊長を筆頭とする後の四名とコロンビア軍士官は、リーコンの先導でリックらの待つアルファ・ツーを目指す。
無駄に出来る時間は一秒たりとなかった。暗視ゴーグルを装着したケンを先頭に、一行はジャングルの闇に姿を消した。

デルタ隊員はさすがにプロの兵士で、道なきジャングルを移動する要領を心得ていた。だがコロンビア軍士官はそうはいかない。すぐに隊列から遅れ始めただけでなく、歩く度に無駄に大きな音を立てていた。いっそ殴って気絶させ、担いで進んだ方が利口なのではないかと真剣に考えたくなるほどだった。
そんな状態で一㎞の道のりを進み、アルファ・ツーに到着したのはアルファ・ワン出発から一時間以上後だった。
リックがダニエルズ隊長と状況及び作戦行動の確認を行った。
その間にリーコンの六名はツーマンセルでブラヴォー・ワン、ツー、スリーそれぞれが、三方から工場を監視できる位置に再び向かった。各セルは、デルタの四名が敷地内に潜入し捜査官を連れ出す間、それぞれの位置から現場を監視し、必要とあらば援護を行う。
ブラヴォー・ワン、ツー、スリーが全て位置に着いた。
救出対象の捜査官には、最後の通信時に作戦の段取りが伝えられており、今夜0240時過ぎに、タバコを一服するふりをして外に出くることになっていた。もう五分もすれば姿を現すはずだ。

四名のデルタ隊員は二手に分かれて、迂回するようなルートで工場のゲートまで慎重に歩を進めた。
工場の明かりが点々と灯っているため、暗視ゴーグルが必要ないのはありがたかった。月のない闇夜さえ昼間のように浮かび上がらせる利器ではあるが、視界が限られて遠近感も曖昧になるため、ゴーグルを使用しないに越したことはなかった。
数分後には、中からは死角となるゲート両脇に待機して潜入のタイミングを待った。
ゲートの扉は閉まっており、この位置から敷地内は一切見えないが、捜査官が表に出てきたら、アルファ・ツーで監視中のリーコン隊員から連絡が入ることになっている。