ゆっくりと死に向かう寂れた街。その侘しさが、異邦人であるケンを少しだけ心細くさせる。だが、世間と隔絶し時が止まったかのようなこの場所は、身を隠したいケンには好都合だ。
緊張を強いられて興奮状態にある心と、無駄に力んだ体。それらを素早く開放する術を心得ているケンは、無人の商店街を抜ける頃には、すっかり落ち着きを取り戻していた。
肉体は疲労困憊だが、夜が明ける前にできるだけ動いた方が良い。どこか、身を隠せる場所を探さなくてはならない。
奴らはまた追って来るだろうか。いや、ヘロインは連中の手にある。ならば今さら俺を殺して何の意味があるというのか。
だが、あの二人組は実際、俺に対する殺意を持っていた。やはり油断できない。
そんな思考の堂々巡りを続けながら、ほとんど無意識に歩き続けたケンは、ふと潮の香りに気づき、吹き付ける風の冷たさに思わず身震いした。
その海風はケンに、なぜ自分がこの北の町、天ヶ浜を目指して来たのかを思い出させた。
「ゲルニカの木」という言葉と共に。