それが到底不可能な願いであることは百も承知で、それでも、そんな未来を想像してみた。
「どうですかねぇ、ちょっと思いつかないけど・・・まぁ、毎日が平和であればいいかなぁ」
こと会話に関しては、絶望的にアドリブの効かない自分にがっくりきた妹尾は、辛くなりながらケンに話を振った。
「で、ケンさんだったら何を?」
「え?あー、おー、そうねぇ」
「あ、聞いてみたいわ、それ」
悦子にもそう言われて、ケンは逃げられなくなった。
「だったら、お金、欲しいね」
「お金!ははっ、言えてる。私も同じ~」
悦子はふざけた調子で付け加えたが、ケンが金を必要としているのは真実だった。
但しその理由は、ここにいる誰にとっても想像さえできないだろう。
俺は、戦場に置き去りにしてきた兄や仲間たちを迎えに行かねばならない。そのためには大金が必要なのだ。
だが一方で、自分を捕らえ続ける過去を一切忘れて、この天ヶ浜で悦子や舞子とこのまま暮らしていきたい。そう願う内なる声を無視することはできなかった。
「ところでケンさん」
妹尾に話しかけられて、ケンは我に返った。
「はい?」
「夢が叶うかどうかは分かりませんが、どうです。ここの神様に献上してみませんか、魚」
「え、サカナ?」
「それ、良いんじゃない。毎年、大勢の人がお供え物を用意して参加するわよ。今はわざわざほんとの魚じゃなくてもいいの。干物とか・・・シーチキンの缶詰をお供えする人もいるくらいだから」
それでは意味がない。自分の狙いから話が逸脱する前に、妹尾はすかさず修正した。
「いえいえ、そこは本物の魚に拘りたいですよ。労力を惜しんでいたら叶う願いも叶いません。だから釣りに行きません?二人で」
「ツリ?」
「あ、釣りってフィッシングのこと。この先に堤防があるのが見えたんで、そこで釣りでもしましょう。次の仕事休みは土曜日でしたっけ」
「はい。土曜日は、仕事はないね」
「だったら日曜の儀式に間に合うじゃないですか。よし、決まりだ。大物狙いで夢も大きく叶えましょう」
妹尾の唐突な申し出にケンは戸惑った。
「でも、やったことないよ。フィッシングギアも持ってないね」
「釣り具なら、こちらで用意しますから。ケンさんの分も」
「そう?じゃあ、やってみようかねぇ、フィッシング」
ケンもその気になったのは、それがナンセンスだとは思いつつも、魚を献上すると願いが叶うという伝説を信じたい気持ちがどこかにあったからだった。
「でも、実際釣れるのかしら。今じゃこの辺で釣りをしてる人なんて見かけないわよ」
それこそ好都合だ。まさに望むべき状況なのだ。悦子の言葉は、妹尾の狙いがずばり的中したことを裏付けた。
「ですが、神様が魚の美味しさに大喜びしたっていう海でしょう。大丈夫。きっと釣れますよ」
もちろん釣果のことなど、妹尾にとってはどうでもよかった。重要なのは、人目につかない場所でケンと二人だけになれるかどうか、それだけだった。
だが、どうやらその問題は解決できたようである。町を挙げての祭りの日に、わざわざ釣りをやる物好きなど先ずいないだろう。悦子が、近頃では釣り人などみかけないと言っているのだから、間違いない。
「どうですかねぇ、ちょっと思いつかないけど・・・まぁ、毎日が平和であればいいかなぁ」
こと会話に関しては、絶望的にアドリブの効かない自分にがっくりきた妹尾は、辛くなりながらケンに話を振った。
「で、ケンさんだったら何を?」
「え?あー、おー、そうねぇ」
「あ、聞いてみたいわ、それ」
悦子にもそう言われて、ケンは逃げられなくなった。
「だったら、お金、欲しいね」
「お金!ははっ、言えてる。私も同じ~」
悦子はふざけた調子で付け加えたが、ケンが金を必要としているのは真実だった。
但しその理由は、ここにいる誰にとっても想像さえできないだろう。
俺は、戦場に置き去りにしてきた兄や仲間たちを迎えに行かねばならない。そのためには大金が必要なのだ。
だが一方で、自分を捕らえ続ける過去を一切忘れて、この天ヶ浜で悦子や舞子とこのまま暮らしていきたい。そう願う内なる声を無視することはできなかった。
「ところでケンさん」
妹尾に話しかけられて、ケンは我に返った。
「はい?」
「夢が叶うかどうかは分かりませんが、どうです。ここの神様に献上してみませんか、魚」
「え、サカナ?」
「それ、良いんじゃない。毎年、大勢の人がお供え物を用意して参加するわよ。今はわざわざほんとの魚じゃなくてもいいの。干物とか・・・シーチキンの缶詰をお供えする人もいるくらいだから」
それでは意味がない。自分の狙いから話が逸脱する前に、妹尾はすかさず修正した。
「いえいえ、そこは本物の魚に拘りたいですよ。労力を惜しんでいたら叶う願いも叶いません。だから釣りに行きません?二人で」
「ツリ?」
「あ、釣りってフィッシングのこと。この先に堤防があるのが見えたんで、そこで釣りでもしましょう。次の仕事休みは土曜日でしたっけ」
「はい。土曜日は、仕事はないね」
「だったら日曜の儀式に間に合うじゃないですか。よし、決まりだ。大物狙いで夢も大きく叶えましょう」
妹尾の唐突な申し出にケンは戸惑った。
「でも、やったことないよ。フィッシングギアも持ってないね」
「釣り具なら、こちらで用意しますから。ケンさんの分も」
「そう?じゃあ、やってみようかねぇ、フィッシング」
ケンもその気になったのは、それがナンセンスだとは思いつつも、魚を献上すると願いが叶うという伝説を信じたい気持ちがどこかにあったからだった。
「でも、実際釣れるのかしら。今じゃこの辺で釣りをしてる人なんて見かけないわよ」
それこそ好都合だ。まさに望むべき状況なのだ。悦子の言葉は、妹尾の狙いがずばり的中したことを裏付けた。
「ですが、神様が魚の美味しさに大喜びしたっていう海でしょう。大丈夫。きっと釣れますよ」
もちろん釣果のことなど、妹尾にとってはどうでもよかった。重要なのは、人目につかない場所でケンと二人だけになれるかどうか、それだけだった。
だが、どうやらその問題は解決できたようである。町を挙げての祭りの日に、わざわざ釣りをやる物好きなど先ずいないだろう。悦子が、近頃では釣り人などみかけないと言っているのだから、間違いない。