いつの間にか、脱衣場は真っ暗になっていた。
 心も体も疲れ果てた康平は、抱えた膝に顔を埋めていた。
 いつ起きるかわからない朱美を一人ぼっちにし続けてはいけないと思う一方で、立ち上がる気力がない。
 溜め息をつきながら、溜め息をつくのさえ面倒だと思った。
 突然、脱衣場が明るくなった。
 康平は照明を見上げてから、ドアを見遣った。
 ドアは閉まったままだ。
 廊下にある照明のスイッチを朱美が押したのだろうか?
 ここには、康平以外に朱美しかいない。
「朱美?」
 ドアの向こうに呼びかけてみるが、返事はない。
「勇也」
 返事はないとわかっていながら、いたら嬉しい存在を呼んだ。
「何?」
 勇也の声に、康平は弾かれるように顔を上げた。
 幻聴だ。わかっていながら、あまりにリアルな声に、康平は慌てて勇也を探した。
 当然、勇也の姿は見当たらない。
「勇也?」
 諦めきれなくて、康平はもう一度呼んだ。
「だから何?」
 背後からの声に、康平は素早く振り返った。