感情はともかく、勇也が亡くなったことを頭で理解してから、康平は時間の流れを極端に遅く感じるようになった。
 マンションに戻るまで、康平と朱美は無言で体を寄せあった。
 勇也を思い続ける胸は熱く、口を開こうとするだけで涙が溢れた。
 康平は何度も歯を食い縛った。けれど、その程度の抵抗では涙は止まらなかった。
 泣き止んでは泣いて、泣いては泣き止む。どちらか一方が泣けば、泣き止んだ方も泣く。その繰り返しだ。
 今もそうだ。
 朱美はタオルケットを被り、康平のベッドで丸まっていた。
 部屋が薄く暗くなるまで、康平はそんな朱美を抱きしめていた。
 泣き疲れたのだろう。いつしか朱美は眠っていた。頬には涙が流れた跡が残っていた。
 康平はベッドから離れると、脱衣場のドアを開けた。
 別のビニール袋に入れ直し、片隅に放置したままの勇也の服を見つめた。
 勇也には捨てるよう頼まれたが、捨てるつもりはない。
 けれど、このままにしておけない。大切な形見だ。
(洗うか)
 康平は洗濯機の蓋を開けて固まった。勇也に貸したスウェットが丁寧に畳んで置かれていたのだ。
 体の奥深くから、切なさが熱なり湧き上がる。
「バカッ。こんな律儀に……アイツ」
 散々泣いて出尽くしたと思った涙が、溢れてきた。
 康平は洗濯機を前に崩れ込んだ。
 康平はしばらく一人で泣き続けた。