高校二年生の春。
 始業式後のホームルーム終え、康平と勇也は校門近くの桜の下で朱美を待っていた。
 理数系の康平と勇也は今年もクラスメイトになれたが、文系の朱美とは今年も別だった。
「もしもだよ。自分を残して世界中の人が突然パッと消えたとしても、康平は朱美ちゃんさえいれば生きていけるよな」
 なんの脈絡もない話を満面の笑顔で振る勇也に、康平は溜め息をついた。
「みんないるのが一番だろ」
 康平はいつものように素っ気なくはぐらかした。
「なら、僕と二人きりの世界と、朱美ちゃんと二人きりの世界、どっちを取る?」
「さぁーな」
「人って、二人いれば十分だと思うんだ。人って結婚して子供が生まれても、子供は独立するから最終的に二人きりじゃん。まあ、ずっと一人の人や、何人もの人に看取られる人もいるけどさ」
 しつこく話を続ける勇也に、康平は呆れるのを通り越して感心していた。勇也の人生には『めげる』という単語がないらしい。
「俺にばっか話を振んな。お前だったらどうなんだよ」
「僕?」
 話を振られたのがそんなに嬉しいのか、勇也は目を輝かせた。犬の尻尾がついていれば、パタパタと振っているに違いない。
「僕は康平と朱美ちゃんと三人でいるのがいいな」
「ちょっと待て。出題したお前が二択を捻じ曲げてどうする」
「さっきのは康平専用の選択問題だもん」
「はぁ?」
「康平はね、理想が高すぎるんだよ。それで、僕は一人でいるのが嫌なだけ」
「カウンセリングの真似事かよ」
「そんなことしなくても見てればわかるよ。康平って、素直だからすぐ態度に出るんだ」
 得意げな勇也に、康平は言われ慣れていない言葉に恥ずかしくなり、全身を熱くした。
「なんだよそれ」
 康平の声が上擦った。精一杯普通を演じるが、動揺が隠せない。
「そのままだって。まだあるよ。康平は誰からも相手にされなくなったら、それこそ手がつけられないほどグレるタイプだろ? あと、本気でぶつからない相手は好みじゃないし。あとは……」
「もうやめろ。聞いてるほうが恥ずかしい」
 康平の顔が耐えられない恥ずかしさに歪んだ。
 勇也の言ったことはすべて当たりだ。当たりだから、より恥ずかしい。
「バカなヤツ」
 照れ笑いした康平に、
「康平よりマシだって」
 勇也はくすぐったそうに笑った。