康平はしばらく泣いていた。泣いて泣いて、一度疲れ果てた。涙が乾いた頃、何度もインターフォンが鳴った。
 放置しているとインターフォンはやんだのものの、激しくドアを叩かれた。
 それもやんだ。
 今度はケータイの呼び出し音が鳴り響いた。
 康平は足元に落ちたままのケータイを拾った。
 朱美の名前がディスプレイに表示されている。
 康平は力の入らない指で通話ボタンをスライドした。
「もしもし」
 声が起き抜けよりもガサガサになっていた。
『康平? 今、康平のマンションのドアの前なんだけど、今、どこにいるの? 康平はいるんでしょ? いなくなったりしないでしょ?』
 必死な朱美の声に、
「ちょっと待って」
 康平は通話を切ると、ふらつきながら玄関へ向かった。
 康平が玄関を開けなり、泣きはらした朱美が目を見開いた。
「勇くんの後を追おうとしたの?」
 朱美の感情に乏しい声と表情に、康平は一瞬何を言われたのか理解できなかった。
「それ……」
 朱美が赤く染まる康平のシャツに手を伸ばした。
 瞬間、朱美の顔をが歪んだ。
「ヤダッ」
 突然、朱美は康平を力いっぱい抱きしめた。