(昨日……勇也は病院から電話したって言ってたっけ。瀕死の重傷だって)
 ケータイを握る手に力が入る。
(アイツ、「最後」とか言ってたけど、オレが勝手にそう思っただけで、本当は「最期」だったのか?)
「朱美、勇也が亡くなった病院って、M総合病院か?」
『なんで知ってるの?』
「勇也がそこから電話したって」
 康平の脳裏に、帰り際の勇也が過ぎる。
(そうだ!)
 康平はケータイを耳に当てたまま、脱衣場へと駆け込んだ。
「洗面台の横。あった!」
『康平、何があったの?』
「勇也が捨てろって言ってたヤツ。そのままにしてたんだ」
 勇也は肩と頬の間にケータイを挟み、しゃがみこんだ。
 白いビニールの買い物袋を引き寄せる。
「幽霊だったら、服なんて必要ないだろ?」
 固く縛られた袋の持ち手を爪を立てて開けようとすると開かず、康平はビニールを引っ張り、裂いた。
 袋から鉄臭さが広がった。
 案の定、そこには昨日勇也が着ていたずぶ濡れの服が入っていた。
 康平はためらわず、それを袋から出した。
「やっぱりある。昨日、勇也が着てた……」
 服を手に、康平は言葉を失い固まった。
 服は汚れていた。
 細かい砂か土のようなものが付着したそれは、赤く染まっていた。しかも、裂かれていた。
『康平? どうしたの? 康平?』
 朱美の声が不安そうに高くなっていく。
 ケータイが床へ落ちる。
 遅れて、康平は濡れた服を抱えるように握り、嗚咽した。