「はっきり言ったらいいじゃん。見るからに痛そうだって。勇くん、アタシは彼の反対の腕掴むから、このまま学校に戻ろう」
 朱美は初対面の康平の腕に自分の腕を組んだ。
 ギョッとした康平は、慌てて朱美の腕を振り払おうとした。だが、それより早く、勇也がもう一方の康平の腕に自分の腕をからませた。
「広瀬くん、制服着てて良かったね。無断欠席してたって、この格好なら堂々と学校に入れるよ」
 心底楽しそうな朱美に対し、
「朱美ちゃんって容赦ないから、きっと垂れるほどオキシドールを塗られるよ。僕、助ける気ないから。今のうちに覚悟してね」
 勇也は苦笑していた。
 振り解こうと思えばすぐに振り解ける腕を、康平は両方とも振り解かなかった。
 温かかったのだ。体温だけでなく、眼差しも、声も、心地よかったのだ。
 そして、利害をまったく考えていないだろう二人の言動が新鮮だったのだ。
 康平は悪態を吐きながらも二人に従った。
(ずっと三人一緒にいられたらな)
 康平がそう密かに願うようになったのはその年の冬、康平のマンションに二人が押しかけ、ささやかなクリスマスパーティーした時だった。