「そうだ。スゲェー面倒な宿題出たんだ。一緒に悩もうぜ」
 屈託のない笑顔の勇也に、康平は固まった。
 どこから見ても物騒な人間でしかない自分に、好き好んで近づいてきたはのは勇也が初めてだった。
 勇也は不思議な人間だった。誰とでも仲良くなれる一方、誰ともつるまなかった。
 勇也以外のクラスメイトは、はみ出し者の康平から距離をとっていた。
 彼らは、物怖じせずに康平へと話し掛ける勇也を『鈍感』や『大物』と評していた。
「勇くん、まさかその人が例の口説きたい被写体?」
 勇也の後ろに同学年らしい女が立っていた。知らない顔だが、同じ学校の制服を着ていた。
「そう。彼が見た目も運動神経は凄ぶるよくて、頭も真面目に勉強すればそれなりにいいのに、他のすべてが全部ダメな広瀬康平ね。ルックスいいのに全然モテないなんて、勿体なさすぎでしょ?」
 勇也は勝手に康平を女に紹介した。
「で、こっちは川口朱美ちゃん。ご近所で友達なんだ」
 続けて、勇也は朱美を康平に紹介した。
「ああ。どうも」
 早々に立ち去りたい康平は軽く会釈すると、「じゃあ」と歩き出した。
 擦れ違い様、康平の服と腕を二人が掴んだ。
 腕を掴んだのが勇也で、裾を掴んだのが朱美だ。
 引き戻された康平が、舌打ちをして二人を睨みつけた。
「他になんか用?」
「このまま帰しちゃいけないなぁと……」
 露骨な愛想笑いをする勇也に、
「あれ? 勇くん、そんな曖昧な理由で止めたの?」
 朱美がキョトンとした。