去年の秋だった。
 学校帰り。
 康平と勇也は分かれ道に向かって歩いていた。
 朱美は委員会に出席でいなかった。
「康平には、朱美ちゃんがいれば十分だよね」
 勇也が言った。
 唐突だった。
「家族に失望してんなら、逆に全然血の繋がりのないものに賭ければいいじゃん。まったく繋がりのない人から愛情を与えられたら、それは多分……きっと家族から与えられる以上に感動するよ。だって、何も繋がってないのにくれるんだよ?」
「俺が誰に賭けるんだよ?」
「だから、朱美ちゃん」
 当然のように言い切る勇也に、当時の康平は容赦なく蹴りを入れた。
 足が当たる寸前のところで、勇也はダッシュして逃げた。
 康平はムキになって追った。朱美に心が傾いていることを勇也に知られている気がして、聞き流すことができなかったのだ。


 康平が朱美に出会ったのは、ゴールデンウィーク明けだった。
 その時の康平は、世の中のすべてに苛立ちながらも失望していた。誰の力も借りずに生きるため、一方的で一時的な強さばかりを求めていた。
 康平は傷だらけの体でトボトボと歩いていた。隣の区の半端者三人にケンカを売って、見事に負けたのだ。
 悔しさよりも虚しさが胸を締めていた。
(帰りたい)
 康平は本気で思った。実家でもなく、マンションでもなく、すべてを曝けだせて定住出来る居場所が欲しかった。
 体が鉛のように重い。
(このまま死ねたらいいのに)
 ふらつきながら、死んで楽になる妄想にかられた。