「何?」
 朱美が瞬きした。
 康平は逸る気持ちを抑えながら、急速に行内が渇くのを感じた。
「いい加減、俺をくん付けで呼ぶのやめてくんない? 俺はお前を呼び捨てにしてんのに、それって変だろ。そんだけだ。そんだけ」
 言いながら恥ずかしくなった康平は、顔を背けた。心臓が痛いほど伸縮を繰り返す。
 沈黙が生まれた。
(やっぱ、言わなきゃよかった)
 康平が後悔するや否や、
「絶対勇くんに何か吹き込まれたんでしょ。わかってるんだからね」
 朱美が声高になった
 思わず見れば、朱美は真っ赤になって上目遣いに康平を見つめていた。
(もしかして、脈あり?)
 想像しなかった朱美の反応に、康平の思考が停止しかけた。
「そんなのどうだっていいだろ。ほらっ、『康平』って呼べよ」
 康平は照れるのを堪えて急かした。
「康平?」
 朱美がはにかみながら小さく呟いた。
 途端、康平の中で朱美への愛おしさが弾ける大量のポップコーンのように膨れ上がった。
 顔がニヤけるのを見られたくなくて、康平は慌てて口を開いた。
「ジュース飲むんだろ。なんでもいいから俺にも持ってきて」