「それで何があったの?」
 一瞬にして心配顔になる朱美に、勇也は肩をすくめた。
「予報では夕方頃、雨が止むんだ。だから、雨で荒れる海と、雨が次第にあがって陽が差し込み始める海を撮るつもりで出掛けたんだ。けど凄い雨でさ。途中でリタイアしたんだ」
「嘘ッ! 土砂降りだろうがなんだろうが撮りたいものがあれば出掛けちゃう勇くんが、それくらいでリタイアするはずないわ」
 言い切る朱美に、勇也は困りながらも微笑んだ。
「体調がね……万全じゃなかったんだ。こればっかりは仕方ないよね。だから、持ってたもの全部コインロッカーに入れてきた」
「それだって信じられない!」
 朱美が叫ぶ。
(唯一持ってたのはポケットに入れっぱなしの小銭入れで、それは買い物して残った数円を募金箱に入れてから、ゴミ箱に捨ててきたもんな。けど、それがあったことが凄いんだ。電話をかけれて、こうして会えて、話せて……)
 勇也はただ静かに笑った。
 今まで、勇也はカメラを手放したことがなかった。ロッカーに荷物を預ける時でも、カメラは手放さなかった。シャッターチャンスはいつ巡ってくるかわからないからだ。