康平の生活水準は、勇也と朱美にかかっていた。妥協した途端、この部屋は人ではなくゴキブリの棲家になるだろう。
 康平が文句を垂れながら、勇也の持ってきたポテトチップの袋を開けた。
 食べやすいように袋を広げる康平を見ながら、勇也はクスリと笑った。
(こういう相手のことを考えた行動だって、康平ができるようになったのは最近だもんな)
 一人で生きていける。誰の手も借りないと、康平は言動で主張していた。
 今までずっとそうして生きてきたのだろう。康平は、人付き合いが極端に下手だった。
 康平との付き合いには根気が必要だった。
 初めの頃。康平は世話を焼こうとする朱美と勇也を激しく拒絶していた。もしかすると、康平は人に優しくされるのが恐かったのかもしれない。
 あの頃の康平は、無関心か拒絶のどちらかしか見せなかった。
 それが今、勇也の好み通りにコーヒーを入れ、みんなで食べやすいように菓子の袋を広げるまでになった。
 勇也のコーヒーの好みは、ブラックにスプーン半分ほどの砂糖を入れるというものだ。起き抜けなら、砂糖はたっぷりがいい。
 今飲んでいるコーヒーからは微かに甘味がする。まさに勇也の好みだ。