「今出せる味つきの飲みもんだ」
 シャワーを浴び終えた勇也の前に、マグカップが置かれた。
 コーヒーだ。康平が入れられるコーヒーはインスタントしかない。
 ウエスト以外のサイズが大きい康平のスウェットに身を包んだ勇也は、カップを両手で包むと、ソファに背中を預けた。
「まだ朱美ちゃん来てなかったんだ」
「そんなに早く来られてたまるか」
 康平が勇也の隣に腰を下ろした。
 部屋の片隅には、中身が詰まったゴミ袋がいくつか置かれていた。
「そうだね。最低でも、康平にはそこら中に散乱していただろうゴミを拾い集める時間が必要だもんね」
「お前にも手伝わせるつもりだったのに、お前が風呂入ってる間に終わったよ」
「昔だったら、絶対間に合わなかったよね。一人で済むほど汚さなくなったって凄い進歩じゃん」
 しみじみとする勇也を、康平が恨めし気に睨んだ。
「お前、俺をバカにしてるだろ」
「ダメな子の成長を喜んだだけだよ」
「俺の家なのにお前らがうるさいく言うからだろ。なんで俺が肩身の狭い思いをしなきゃいけねぇんだよ。おかしいだろ」
「全然」
 勇也は一言で片付けると、コーヒーに息を吹きかけた。