康平のマンションに到着すると、勇也は鉛のように思い腕を上げ、感覚のない指でインターフォンのボタンを押した。
さほど待たされることがなく、ドアが開いた。
「早かったな」
無数の缶が入ったゴミ袋を片手に、康平が目を見張った。
「なんだよ、お前。びしょ濡れじゃんか! ちょっと待ってろ」
ゴミ袋を放置して、康平が部屋の奥へと駆けていく。
すぐに戻ってきた康平は、脇に挟んでいたバスタオルを勇也に渡すと、何枚ものタオルを床に落とした。
「鞄は俺に任せて、お前は自分を拭いてろ」
手を差しだす康平に勇也は噴きだした。
「なんだかんだって、朱美ちゃんの面倒見の良さが移っちゃってるね、康平」
「お前が自分よりもカメラを大切にするからだろ! ほら貸せって。そっちは俺が拭いてやるから」
早く渡せとばかりに手を出し続ける康平に、勇也が笑いを堪えた。
「ないよ」
「え?」
驚く康平に、勇也は再び噴きだした。
「だから、カメラは持ってきてない。荷物はこれだけ」
勇也はコンビニの袋を康平の手に置くと、乱暴にカッパを脱いだ。
「このカッパ、一〇〇円ショップのだし、ゴミでいいや。雨に濡れすぎて手が震えちゃってさぁ」
「バカかお前!」
落としたタオルを素早く手に取り、康平が怒鳴った。