押し入れからスクラップブックを出して、姉の写真を適当に選ぶ。スクール水着に透明の雨合羽を着ている写真があった。これを送りつけたら、姉妹仲へ相当な影響が出るのは間違いなかった。父親の写真センスがひどすぎて、『紙粘土を頬張る姉』『バス停の屋根に上ろうとする姉』『窓の外に吠え猛っている姉』みたいな写真ばかりが出てきた。最後のなんか、ほとんど犬だ。
「ひどいなこれ」
 あまり見たくない自分の写真も、いくつか挟まっていた。おそらく、不平が出ないよう、均等に姉妹を取っていたのだろうが、奔放な姉に比べて、常識にあふれた私は……。
 『図書館の壁に登ろうとしている私』『精米機の近くにいる鳩を捕まえて掲げる私』『ジャングルジムの頂上から身投げする私』『学童保育で、男の子の前に立ちはだかってけんかする私』
「おかしい、これは何かがおかしい」
 最後の写真なんか、まるで漫画の一コマみたいだ。男の子たち三人が、私に向かって挑むように向かってきていて、私は両手を広げて立っている。私の後ろには、黒い髪を短く切った女の子が、心配そうと言うよりは、呆然とした表情でぺたんと座っている。
 いきなり母親がドアを開けて「ご飯だけど」と言った。私はする必要もないのにパタンとアルバムを閉じて、「いきなり開けないでって言ったじゃん!」と注意した。
「あんたはどうやってもキレるんだから。何、アルバムとか見て。入学初日からいじめられたの?」
 んなわけないじゃん、とため息をつく。お姉ちゃんが写真送れって言ってきたの、と説明する。アルバムを開いて、さっきの写真を見せる。
「あー、こんなことあったね。確か、これ、周りはみんな二年生で、あんたは一年生だったんだよ、この女の子、なんて言ったっけ、イオリちゃんか誰か、年上だってのに、あんたにずっとくっついてたよ、ほら」
 母親が他の写真を指さすと、確かに、私が学校にいるときには、いつもこの子がくっついてきていた。学童保育で、魔法少女のごっこ遊びとか、ジグソーパズルとかをしていた。
 思い出の品を見るために、自分の部屋に入ろうかと思ったが、やめにした。そこは、恥ずかしい過去になってしまっていた。フラれるまでの、ちょっと頭がおかしかった頃も、卒業直前にフラれてからの、荒れてたときも、たった数ヶ月前のことなのに、絶対に見たくなかった。
 私は写真を見直す。この子は小六のときにはもういなかったはずだ。母親に訊いても、「知るわけないでしょ、そんなこと」と取り合って貰えなかった。
 なんとなく、薄ら寒いものを感じた。
 この女の子は誰だっけ? イオリという名前の女の子はどこに行ったんだっけ?