家に帰ってから、姉に電話をかけた。東京の大学にいる彼女の方が、両親より相談しやすかった。
 自分の部屋の窓を開けて、窓際に椅子を持ってくる。椅子に正座すると、窓のさんが、腕を載せるのにちょうどいい高さになった。空には月が半分欠けて見えている。上弦の月とかやったな。姉が電話に出た。
「あ、もしもし、お姉ちゃん?」
「ごめんごめん。文? 何? 高校入学したんだっけ? おめでと、こっちは新入生をどうこうするのでいそがしくってさ」
「あー、別にいいよ」
 それから、私は手短に話を説明した。『親子の霊』とやらの話を持ち出すと、相談どころではなくなってしまうのは目に見えていた。私はその部分ははしょって、オカルト研究会とか、先輩がめっちゃ厳しいとか、なんか突然キレてきて困るとか、そういう話をした。
 話しているとき、ふっと、先輩の名前も、先生の名前も聞いていないことに気がついた。
「その顧問の先生ってどんな人なの?」
「なんか中年で、エラそうな人。エラいって意味じゃないよ。とにかくエラそうなの。ふんぞり返ってるハムスターみたいな……」
 なにそれ、と電話の向こうで姉がけらけらと笑って、直後に「ツトムじゃん!」と大声を上げた。
「それツトムだよ、斉藤ツトムだか鈴木ツトムだか佐藤ツトムだか知らんけど、とにかく、下の名前がツトムなの。だからみんなツトムって呼び捨てにしてた。まあ単に嫌なおっさんだよ」
 単に嫌なおっさんって、と私があきれていると、「本当にそうなんだって」と姉が言ってきた。
「でさ」
 と姉が言う。なにか言葉の裏に、怪しいものを感じた。
「その先輩ってイケメンなんでしょ? 文、もしかして——」
「はいうるさい、お姉ちゃんみたいに恋愛脳じゃないから。そういうところほんとどうにかした方がいいよ」
 私が電話を切ろうとすると、姉が「そうだ」と待ったをかけた。
「何? 紹介とかしないからね。二十歳にもなって、高校生に手を出すのってやばいよ」
「違うって。今、あんた、あたしの部屋で寝てんだよね? サークルの余興で、小さい頃の写真と同じ服装で写真を撮るっていうのがあってさ、なんか送ってくんない?」
 はー、と私はため息をついて電話を切る。