「五年前はまだ活発だったんだよ、ほら、そのときの部誌だってこんなに厚いだろ、部員だって十人以上いて、みんな寄稿してたんだ。ほら、奄美大島まで行って撮ってきたチュパカブラの写真だろ、歴代のお札から読み解くフリーメイソンの陰謀だろ、テスラコイルが成功してた証拠だろ、ほら!」
 そこには昔の高校生が笑顔で映っていた。もちろん、何かよく分からないもやもやには黒いマジックで印がつけられていて、『エレクトロプラズム』と書いてあった。
「分かった?」
「わかりました。あと、なんで、部屋の隅に、巨大な黒い棒が立てかけてあるんですか?」
「あれか? アメリカはネブラスカ州警察で採用されているマグライトだよ! オカルトと言ったらマグライト、とにかく、人を殴って殺せるくらい強力なマグライトって相場が決まってる」
「そうですか……」
 と私は答えた。この人と高校生活で一緒になることはないだろう。まさか、高校生活の三年間を、オカルト研究会で過ごすことになるとは思えない。
「それで、きみの名前は?」
「アイザワアヤって言います。相談する沢の文です」
「文? 文って、ブンガクの文って書いて、アヤって読む?」
「そうですけど」
 先輩は、うれしそうに身を乗り出した。後ろの本棚には月間ムーが並んでいた。外の窓から春の風が吹き込んできた。照葉樹のにおいがした。
「この顔、覚えてる?」
 間。
「覚えてないの?」
「あれ? ちょっと、はは、えーっと」
 私は目線をそらして、それはぁ、と語尾を伸ばした。先輩はその続きを待った。気まずい沈黙が広がった。
「覚えてないんだな?」
「はい」
 先輩は机の上に広げられたチュパカブラとフラットウッズモンスターの『動かぬ証拠写真』を乱暴にクリアファイルに入れた。ノストラダムスの真の予言の『明白な手稿』をフラットファイルにとじ直した。スクールバッグを背負って、「出ろよ」と告げた。それはほとんど命令に近かった。私は従った。
「じゃ」
 そう言い残して、先輩はつかつかとどこかに歩いて行った。ちょっと、と言う間もなく、一人残された。
 その直後、遠くで騒いでいた二年生たちが集まってきた。ねえ、さっきの火見てた? マジで声が聞こえたの? 何年生? 私が家に帰ったのは七時をすっかり回ってからだった。
 どこで間違えたんだろうか?