彼女が帰った後で、私たちも倉庫を出た。鍵を閉めた。窓にはまった鉄格子から、紺色のペンキがばりばりと剥がれ落ちていた。それは、飛び立つことに失敗した、無数の紺色の蝶みたいに見えた。
「これ、お前にやるよ。明日、返せ」
 ツトム先生が私に、古びた紙を渡した。私はそれを読んだ。呼吸が止まった。
「先生、これ」
「どうするかは勝手だ」
 それは卒業文集の下書きだった。それには、伊折が想定していた内容がすべて載っていた。上野先生がやった罪が数え上げられていた。私はツトム先生の顔を見た。私にはできることがなかった。