「お前がそそのかしたんだろ! なあ、どんな気分だ? 久しぶりに会った幼なじみに会ってさ、トラウマをほじくり出して焚きつけて、そいつがみっともなく失敗しているのを見るところは!
 たまに思うんだ。あたしはずっと一人で戦ってきている気がする。あたしが寝静まった夜中に、みんな、一人残らずみんな集まって、あたしを貶めようとしているように感じるんだ!
 なあ、文、お前に良心があることは認めるよ。上野先生、あたしは科学だって信じるよ。どこかの天才が引っかき回さない限り、科学的な方法で、物事にひとまずの決着がつくってことも信じるよ。それが人類をここまで進めてきたことも信じる。
 実際、もうこれ以上、あたしをどこかの陰でこそこそ笑ったり、あたしの兄貴を馬鹿にしないって決めてくれれば、あたしはもう戦うのをやめるよ。それの条件がオカルトをやめることだったら、喜んでやめる。
 それと、文、あんたがそっちに立ってくれて、本気であたしはうれしい。だって、あたしは今、完全に間違えたことをしてるんだもんな。兄貴があんな風になったのを、どうにかできるっていう考えからして間違ってた。これも認める。だから、あたしは、このとんでもねえマグライトを降ろして、ごめんなさいとかなんとか言って、上野を逃がすべきなんだろう。逃がすってのも違うよな。和解するとか、そういうべきなんだろう。それが正しい選択だってことも、あたしは信じるよ。
 でもさ、これから、あたしのプライドはどうなる? あたしはどんな顔をして、これから兄貴に会えばいい? 兄貴に会うたび、あたしは自分に言うのか? 『あたしは兄貴を救おうとして、ミスったんだよな。あたしは馬鹿だからな』。それで文、あんたに電話を掛けたりするんだよな。あのときは間違えてたね、でも今は反省しているから……とかなんとか言って! そして文、お前は優しいから、受け止めてくれるんだろうな!
 あたしは思うんだ。このとき、あたしに、あんたたちが日頃持っているものの二万分の一でも、自尊心を持つ余地ってあるんだろうか? あたしが欲しいのは、そしてあたしが兄貴に渡したいのは、自尊心なんだよ。オカルトやってると、どれだけ人に馬鹿にされるかが分かるか?
 なあ、いくら馬鹿にされても、自尊心ってのがあれば人は生きていけるもんなんだよ。お前らはあたしからそれをまるごと奪おうとしてるんだ」