「話すことって何? なんで鍵を閉めたの?」
 遠藤君は私の話に答えなかった。その代わりに、私の手を握りしめた。好きだ、と伝えてきた。私は何を彼が言っているか分からなかった。
「ちょっと、どういうこと?」
 遠藤君は私をそのまま部屋の奥に押し込んだ。ソファに座らされた。遠藤君が隣に座った。それどころじゃない、と私は言おうとした。今、鍵がなくて困っているから、君に告白されても困る。
「付き合って欲しい。初めて見たときから好きだったから」
 遠藤君は私の目を見ていった。というより、私の顔を覗き込んでいった。私のわきが、じっとりと濡れるのが分かった。鍵は――鈴鹿先輩は――そんなことばかりが頭をよぎった。
「困るよ、遠藤君」
「ここで言って、お願い」
 立ち上がろうとした。鍵を閉める必要は無かったでしょ、と吐き捨てて、後でどうにかしようと思った。
 遠藤君は私に立ち上がらせなかった。ものすごい力で押し込められた。眼鏡で小さい遠藤君のどこに、こんな力があるのか分からなかった。茶色の部屋が、ものすごく小さく感じられた。遠藤君が私を押し倒した。ソファに背中が触れた。彼が覆い被さってきた。耳に口を近づけた。
「最初に会ったときから好き。相沢さんみたいな人に会いたかった。相沢さんみたいに、誰にでも優しくて、積極的な女の子が好きなんだ」
 何を言っているのか分からなかった。ポケットのスマホが震えた。私はなんとか取り出そうとした。彼が私の手首を叩いた。スマホがどこかに吹っ飛んでいった。彼が私の首にキスした。ぞくぞくと寒気が登ってきた。体に力が入らなかった。
「誰もいないよ。今、みんな、他のところに行ってるんだ。僕は知ってるけど。知りたい?」
 喉が詰まって答えられなかった。体の感覚は失われたままだった。へその下がずきずきと痛んだ。いろんなことを思い出した。遠藤君は私の胸に手を当てた。そして強く押した。揉むほどの胸があると思っていたら残念だったな、と私は人ごとのように思った。
 遠藤君の手が、キャミソールの下に入ってきた。私は徐々に状況を理解しつつあった。私はこいつにブチ犯されそうになっている。私はとんでもなく無力だった。
「ごめん、我慢できないよ」
 クソ、クソ! 手のひらが動かなかった。まるで体が死んでいるみたいだった。私にはできることが何もなかった。遠藤君がワイシャツのボタンを外し始めた。