でも、チャンスはすぐ来た。五月の頭、ゴールデンウィークに、入学式の時に使ったものをしまい込むと、上野先生が教卓で話す。
「新入生に手伝ってもらうのもどうかって話になったんだけどね、二人、誰か手伝ってもらえませんか? 誰もいなかったら――」
「私、やります」
「僕もじゃあ、やります。あと一人いるんですよね」
 遠藤君がおずおずと手を挙げた。はい、と上野先生は言って、スマートフォンに素早くフリックして、連絡ツールに決定事項を流した。

「って話です。これで、ほとんど人がいないときに、こっそり、職員室に入れます」
 先輩は頷いた。すでに緊張しているみたいだった。大丈夫なのか? と何度も聞いた。その間にも、彼女の兄が書いたらしき部誌を何度も読み返していた。
「はい。遠藤君も一緒なんですけど、遠藤君ならきっと黙っててくれますよ。というか黙らせます。眼鏡ですよ? 『オラ』っつったら黙ります」
「お前さ、意外とヤンキーだよな」
 照れますね。おとなしくしとこうと思ってたんですよ、入学当初は。彼女は同意した。
「大体うまくいかないもんだよな。立ち向かわずにいようと思っても」 
 私は頷いた。