姉の部屋を出た。私の――以前の――部屋に入った。
 ものすごく散らかっていた。深呼吸をした。ドクターペッパーとかモンスターエナジーとかの匂いがした。一瓶千円の香水の匂い。ざらざらになった革ジャンの匂い。中学生の私、ものすごく反抗期で、何でも解決できる力があると思い込んでいた少女の匂い。電気をつける。スクーターの鍵を机から拾い上げた。

 伊折の家まで、バイクで二十五分と書いてあった。十五分で着くつもりだ。
 何ヶ月かぶりに、スクーターにキーを差し込む。ハンドルの中央に、巨大なステッカーが貼ってあった。元カレが好きだったバンドのステッカーだった。一曲しか聞いたことがなかった。
 私は、元カレの顔が全く思い出せなくなっていることに気がついた。ステッカーを剥がして捨てた。ハンドルを回した。