放課後が始まる。私は教室を飛び出す。五階に登った。準備室には先輩がいた。目が合った。三白眼がにらんだ。私は見つめ返した。
「何で資料室に行きたいんですか? ツトム先生と関係ありますか?」
「お前に教える義理はないだろ」
「じゃあ頼みます。教えてください」
 間。 
 伊折は私のことをじっと見た。そして、口を二回開いた。声は出さなかった。そして息をついた。長く、細く、ゆっくりと息を吐いた。立ち上がった。
「お前にはもう頼れないよ」
「私は拒みませんよ」
 彼女は一歩前に進んだ。鼻の先が合いそうなくらい近づいた。目の焦点がうまくあわなかった。
「あんたにはもう関係の無い話もあるんだよ」
 私ははっとして彼女を見つめたが、すでに、伊折は後ろを向いていた。荷物をひっつかんで、スクールバッグに詰めた。肩に掛けて歩いて行った。数歩進んで止まった。そして私の方を振り返った。訂正する、と短く言った。刺すように響いた。
「お前には頼りがいが無くなったんだよ」