「それでさ、伊折はツトムと仲悪いの?」
「あっちが勝手に嫌ってるだけ。わかんねえよ」
伊折はどうやらクラスに友人がいないらしく、毎日、いちいち五階まで上がって、国語科準備室でお弁当を食べていた。
「多分、あたしが嫌いなんだろ。ほら、来そうな気がする」
気がするって、と私が突っ込むと、机の端にある何か羅針盤のようなものを指さした。伊折は第一ボタンを開けて、ネクタイを緩めた。
「ユニバーサル・コンパスが凶を指してる。風水とウィジャ盤と西洋占星術のいいところを組み合わせたアイテムなんだけど、これは——」
伊折が怪しいオカルトグッズを紹介し始めたところで、ドアが開いた。伊折は「ほら予想が当たった」という顔と「よりによってこいつかよ」という顔が複雑に混ざった顔をした。
「あんた職員室に友達いないのかよ」
「お前こそ、クラスに友達いないのか」
普通に考えて最悪な質問だった。私はツトムの方をじとっとした目で眺める。彼も私の目線に気がついたようだった。
「こんなところで、あたしにキモい絡みかたして、何が目的かわかったもんじゃねえよな。まさか自分とこの学生に手ェ出すのかよ」
じゃあ言うけどな、とツトムは両手を広げた。う、と伊折が体を引いた。私は伊折の横に並んだ。
「権利とやらを振りかざして、校則に逆らうやつが、こんなガラクタをたくさん持ち込んできてるって職員の間でも問題になってる。それに、一年生、お前は学業成績優秀につきってここの理数系に入ってるんだ。伊折、お前がこいつをオカルトに引きずり込んで、こいつの成績が下がったらどう責任とれるんだ?」
伊折は、私の方を、ちらっとみた。その目が何かを訴えた。ツトムはまだ責めるつもりらしかった。胸ポケットからボールペンを引き抜いて、カツカツと机をたたきながら説教を始めた。ムカついた。
「いいか? このガラクタを全部持って帰れとは言わない。俺が全部捨ててやる。だから、もうオカルトとやらから足を洗え。鈴鹿、お前がお前の兄貴のことに——」
伊折が机を思い切り平手でたたいた。ツトムが一瞬黙った。その隙を先輩は見逃さなかった。
「兄貴とは関係ない!」
そう言って、弁当箱をひっつかんで、私の隣を通り過ぎた。ツトムの体を乱暴に押しのけて部屋を出て行った。
「あっちが勝手に嫌ってるだけ。わかんねえよ」
伊折はどうやらクラスに友人がいないらしく、毎日、いちいち五階まで上がって、国語科準備室でお弁当を食べていた。
「多分、あたしが嫌いなんだろ。ほら、来そうな気がする」
気がするって、と私が突っ込むと、机の端にある何か羅針盤のようなものを指さした。伊折は第一ボタンを開けて、ネクタイを緩めた。
「ユニバーサル・コンパスが凶を指してる。風水とウィジャ盤と西洋占星術のいいところを組み合わせたアイテムなんだけど、これは——」
伊折が怪しいオカルトグッズを紹介し始めたところで、ドアが開いた。伊折は「ほら予想が当たった」という顔と「よりによってこいつかよ」という顔が複雑に混ざった顔をした。
「あんた職員室に友達いないのかよ」
「お前こそ、クラスに友達いないのか」
普通に考えて最悪な質問だった。私はツトムの方をじとっとした目で眺める。彼も私の目線に気がついたようだった。
「こんなところで、あたしにキモい絡みかたして、何が目的かわかったもんじゃねえよな。まさか自分とこの学生に手ェ出すのかよ」
じゃあ言うけどな、とツトムは両手を広げた。う、と伊折が体を引いた。私は伊折の横に並んだ。
「権利とやらを振りかざして、校則に逆らうやつが、こんなガラクタをたくさん持ち込んできてるって職員の間でも問題になってる。それに、一年生、お前は学業成績優秀につきってここの理数系に入ってるんだ。伊折、お前がこいつをオカルトに引きずり込んで、こいつの成績が下がったらどう責任とれるんだ?」
伊折は、私の方を、ちらっとみた。その目が何かを訴えた。ツトムはまだ責めるつもりらしかった。胸ポケットからボールペンを引き抜いて、カツカツと机をたたきながら説教を始めた。ムカついた。
「いいか? このガラクタを全部持って帰れとは言わない。俺が全部捨ててやる。だから、もうオカルトとやらから足を洗え。鈴鹿、お前がお前の兄貴のことに——」
伊折が机を思い切り平手でたたいた。ツトムが一瞬黙った。その隙を先輩は見逃さなかった。
「兄貴とは関係ない!」
そう言って、弁当箱をひっつかんで、私の隣を通り過ぎた。ツトムの体を乱暴に押しのけて部屋を出て行った。