舞台袖から一歩一歩講演台に向かう。
 大量にたかれるカメラのフラッシュ。マスコミ以外の聴講者も、講演中以外は撮影可能というレギュレーションにしていた。聴講者たちからは、声援のようなものもあがっているが、どちらかと言えば戸惑いと思われるざわつきの方が大半を占めているように感じた。
 覆面をかぶっての登場となるので、それが真っ当な反応というものだろう。

 出演する条件は覆面をかぶること。公的機関のイベントでこれが許されたのは画期的なことだった。何を最優先すべきか、という点で組織の想いが一致したことは大きいと思う。

 ふと聴講者に目を向けると、編集者の高坂の姿が目に入った。本件のキープレーヤーの一人である。高坂のリークから全てが始まった。
 聴講者の中でフクロウの本来の姿を知っているのは高坂ぐらいのものである。彼女はこのシンポジウムで何を思うだろうか。彼女にだけは終了後にもう少し事情を伝えた方が良いかもしれない。
 そういえば、高坂からの連絡をなかなかもらえなくて、やきもきしたこともあった。今となってはそんな日も良い思い出になっている。

 講演台にたどり着き、マイクを手に取る。
 大丈夫、練習したとおりに行うだけだ。
 講演原稿というお守りをポケットに忍ばせながら、講演を開始した。