小会議室での部長との議論も想定通りに進めることができた。

 知事や市長をはじめ多くの偉い人やマスコミを巻き込み、後に引けない状況を作り出す。
 本番三日前にドタキャンの連絡。
 体裁を保つことを最優先にする部長に相談。
 覆面代理出席という選択肢の提示。

 弱った人間を懐柔するのはそこまで難しくない。考え方が堅い課長が不在のタイミングで話をあげて、部長判断で決断させることまで終わらせておくことも大事なポイントの一つだった。

 この部長には、市役所職員がフクロウの代理を務めてはどうかという選択肢を否定できるほどの度量はない。

 こうすることで、公務員寺岡として、堂々とフクロウに扮することができる。
 職場の人には、事情があって寺岡がフクロウの代理をしているだけとしか見えない。
 でも実際は本人がフクロウに扮しているので、覆面フクロウの立ち振る舞いには何の違和感も残らない。
 完璧な計画だ。

 小会議室から出たのちに、程よいタイミングでフクロウからの「代理出席で結構です」メールを神崎に送付する。こうして舞台は整った。

 神崎はすぐさま、そのメールを報告してきた。そして先刻と同様に二人で部長のデスクに向かい、再び小会議室での三人会議が始まった。

「中継やビデオメッセージのラインはどうだったんだ」
「そのことには特に触れておらず、代理出席でよろしく、という内容です」

 神崎が答える。

「そうなると…いいな、代理を立てるラインで進めるぞ」

 あくまで三人の合意事項として進めようとするあたりは、実に役人らしさがにじみ出ていた。ともあれ同意の意を示すと、神崎もそれに続いた。

「で、誰がフクロウの代わりになるんだ」

 待ちに待った部長の言葉だった。
 すぐにでも反応したかったが、即答するのは少し不自然というものだろう。
ここは五秒数えてから回答すると決めていた。五、四、三……

「やります!」

 神崎は、大声で叫びながら、力強く手を挙げた。

 え…?

 想定していなかった立候補宣言を聞いて、寺岡の周りの時が固まる。

「いいのか、やってくれるのか」
「はい、ここまで来たらやり切りたいですし、講演原稿ももらえそうですし」
「よし、わかった。頼んだぞ」
「頑張ります!」

 え……?