「おい」

不愛想な声とともに差し出されるハンカチ。顔を上げれば、そっぽを向いたまま那岐さんが「早くしろ」と苛立たしげに急かしてくる。

私はおずおずとそれを受け取って、見かけによらず優しい人なんだなとこっそり笑う。

怖い顔も近寄りがたい態度も照れ隠しなのかもしれない。

そんなふうに考えながら目元をハンカチで拭っていると、那岐さんは先にキッチンのほうへ歩き出した。

「美紀さんも席に座っていてください。美紀さんが分け合いたかったおいしい、を必ず届けますから」

『……!』

美紀さんが息を吞んだ気がした。

私はそれに笑みを返して、一旦バックヤードに入ると制服に着替えてキッチンに立った。

那岐さんがフライパンを取り出している隣で、私は卵を四つにプレーンヨーグルト、塩に薄力粉、ベーキングパウダーに砂糖、無塩バターを準備する。

那岐さんはボウルをふたつ取り出して、そのうちのひとつに私の用意した薄力粉一〇〇グラムとベーキングパウダー小さじ二杯を入れてかき混ぜる。

私は那岐さんが出した二つ目のボールに卵黄四個とプレーンヨーグルト大さじ四杯を入れてヘラで全体を馴染ませた。