「いらっしゃいませ!」

「いらっしゃいなのだ!」

水月くんとオオちゃんの声が重なり、いつもの角席に座っている陽太くんも「ああ、予想よりも早い到着だね」と興味なさげにこぼした。

集まる視線と鳥居を潜ったら喫茶店にトリップするというこの状況に、磯部さんの思考は見るからに停止している。

口を半開きにしたまま固まっている彼に、私は水月君と顔を見合わせて苦笑いした。

「えっとー、うん、きみの動揺はわかるよ。だけど、今はとりあえず座ろっか」

水月くんは気を取り直すように彼の背に回ると、グイグイ押して席に案内した。少々強引ではあるが、美紀さんのためにもご愛敬である。

「メニューを持ってその人との思い出の料理を思い浮かべてくださいね」

何の説明もされないまま、水月くんにメニューを渡された磯部さんは助けを求めるように私と那岐さんを見上げた。

私は美紀さんの靄と一緒に磯部さんの席の前に立ち、「すみません」と開口いちばんに謝罪する。