「喫茶店、こんなところにあるんですか?」

ああ、そうよね。

いきなり彼女の友人とはいえ、こんな森の奥に連れてこられたら戸惑うのも無理はない。

配慮が足りなかったなと反省しながら私がフォローを入れようとしたとき、那岐さんに先を越されてしまう。

「黙ってついてこい」

どうして、この人はいちいち喧嘩腰なんだろう。

前に水月くんが那岐さんは愛想っていう世渡りの基本中の基本スキルを獲得できなかった哀れな男だと言っていたけれど、本当にその通りだ。対人能力の欠片も備わっていない。

「もう少しです。あの鳥居を潜ったら着きますから」

私は空気を和やかにするべく笑顔を浮かべながら、隣を歩く那岐さんを肘で突いた。

「なんだ」

那岐さんは睨んできたが、私は〝空気を読んでくださいよ〟と抗議の視線を送る。

お互いに引かず無言で凄み合っていたら、いつの間にか鳥居を潜っていたようで喫茶店の中にいた。

背後で「うわっ、なんだ!?」という当然といえば当然の悲鳴があがる。

私は数回程度、足を運んだだけなのに、すでにこの状況に慣れを感じていたので磯部さんの反応がやけに新鮮に感じた。