『約束……パンケーキ食べるって約束、叶えられなくてごめんね』

一般人に死者の声が届かないのは美紀さんも理解していただろうけれど、顔を見たら思わずといった様子で呟いていた。

喫茶店に連れていく口実ができた、と私は美紀さんに感謝しつつ磯部さんに問いかける。

「美紀さんとパンケーキを食べる約束……してませんでしたか?」

「それを……どうして君が知ってるんだ。美紀と知り合いなのか?」

「あー……は、はい。地元の友達で……その、ここではなんですから、時間があればですけど、喫茶店でお話しませんか?」

ここは美紀さんの実家がある場所だし、私が地元の仲のいい友人ならばパンケーキを食べる話を知っていたとしてもおかしくはないだろう。

磯部さんも私が美紀さんの知り合いだと知って、警戒していた表情を緩める。

――嘘をついて、ごめんなさい。

あとで叱責はいくらでも受けよう、と覚悟して私たちは磯部さんを連れて歩き出す。

やがて黄泉平坂にある鳥居の近くまで来たとき、磯部さんは「あの……」と戸惑うように声をかけてきた。

前を歩いていた私と那岐さんは同時に振り向く。

「なんだ」

「どうしました?」

那岐さんは私たちの顔を見て、辺りの森を見て、進行方向の古びた鳥居を見て、言いにくそうに切り出す。